養子縁組の当事者である甲男と乙女との間に、たまたま過去に情交関係があつたが、事実上の夫婦然たる生活関係が形成されるには至らなかつた場合において、乙は、甲の姪で、永年甲方に同居してその家事や家業を手伝い、家計をもとりしきつていた者であり、甲は、すでに高令に達し、病を得て家業もやめたのち、乙の世話になつたことへの謝意をもこめて、乙を養子とすることにより、自己の財産を相続させあわせて死後の供養を託する意思をもつて、縁組の届出に及んだものであるなど判示の事実関係があるときは、甲乙間に縁組を有効に成立させるに足りる縁組の意思が存在したものということができる。
過去に情交関係があつた当事者間における養子縁組につき縁組意思が存在したと認められた事例
民法802条1号
判旨
養親が養子に対し、長年の看護や家事従事への謝意、財産相続、死後の供養を託す意思をもって縁組の届出をした場合、過去に一時的な情交関係があったとしても、それが事実上の夫婦関係を形成するに至らないものであれば、養子縁組の意思は認められ、当該縁組は有効である。
問題の所在(論点)
当事者間に過去の情交関係が存在する場合や、財産の承継・供養といった目的が含まれる場合に、民法802条1号の「縁組をする意思」が認められるか。
規範
民法802条1号にいう「縁組をする意思」とは、真に養親子としての身分関係を創設する意思を指す。もっとも、相続財産の承継や死後の供養を目的とすることは直ちに縁組意思を否定するものではなく、実質的な身分関係を形成する意思が認められる限り、縁組は有効である。また、当事者間に情交関係があったとしても、それが一時的・秘匿的なものにとどまり、事実上の夫婦関係(内縁関係)を形成していないのであれば、養親子関係と両立し得ないものではなく、縁組意思を欠くとはいえない。
重要事実
事件番号: 昭和37(オ)1235 / 裁判年月日: 昭和38年12月20日 / 結論: 棄却
他の相続人の相続分を排することを主たる目的としなされた養子縁組であつても、親子としての精神的つながりをつくる意思が認められるかぎり無効ではない。
養親D(明治29年生)は、姪である被上告人(大正10年生)と昭和29年頃から同居していた。被上告人はDの家事や仕事を手伝い、Dの内縁の妻の看護にもあたり、妻の死後もDと同居を続けていた。Dは高齢で病気療養中であった昭和39年、被上告人への謝意、財産の相続、および死後の供養を託す目的で養子縁組の届出をした。なお、両者間には過去に情交関係があったが、それは偶発的・秘匿的なものであり、事実上の夫婦としての生活実態はなかった。
あてはめ
Dは高齢かつ病気療養中であり、長年尽くしてくれた被上告人に対し、謝意の表明や死後の供養、財産の管理・承継を委ねる目的で縁組を行っている。これは養親子としての永続的な身分関係を前提とする合理的な動機であるといえる。また、過去の情交関係は、偶発的かつ秘密の交渉にとどまっており、社会的に夫婦と認められるような実態を形成していない。したがって、かかる情交関係は養親子という新たな身分関係の形成を妨げる性質のものとは解されず、真に養親子関係を創設する意思があったと認められる。
結論
本件養子縁組には縁組意思が存在し、有効である。
実務上の射程
縁組意思の有無が争われる事案(特に愛人関係の隠蔽や便法としての縁組)において、過去の性的関係が直ちに無効原因にならないことを示す。身分関係形成の真意を判断するにあたり、生活実態や目的の合理性(看護・供養等)を総合考慮する際の基準となる。
事件番号: 昭和55(オ)1133 / 裁判年月日: 昭和56年4月24日 / 結論: 棄却
甲乙夫婦の乙に縁組意思がない夫婦共同の養子縁組につき、甲が永年乙と同居しながら突如別居して単身で縁組の相手方と同居したため乙の家庭と縁組の相手方との間に紛争を生じ、また、縁組により甲乙間の子らの相続分が減少することが乙の意思に反し、かつ、乙の家庭内の円満を害する可能性を多分に含んでいる等、原判示の事実関係のもとにおいて…
事件番号: 昭和23(オ)85 / 裁判年月日: 昭和23年12月23日 / 結論: 棄却
一 旧民法第八五一条第一号(新民法第八〇二条第一号)にいわゆる「当事者間に縁組をする意思がないとき」とは、当事者間において真に養親子関係の設定を欲する効果意思を有しない場合を指し、たとえ養子縁組の届出自体については当事者間に意思の一致があつたとしても、それが単に他の目的を達するための便法として仮託されたものに過ぎないと…
事件番号: 昭和45(オ)266 / 裁判年月日: 昭和45年11月24日 / 結論: 棄却
当事者間において養子縁組の合意が成立しており、かつ、その当事者から他人に対し右縁組の届出の委託がなされていたときは、届出が受理された当時当事者が意識を失つていたとしても、その受理の前に翻意したなど特段の事情のないかぎり、右届出の受理により養子縁組は有効に成立する。
事件番号: 昭和47(オ)209 / 裁判年月日: 昭和48年4月12日 / 結論: 棄却
一、夫婦が共同して養子縁組をするものとして届出がされたところ、その一方に縁組をする意思がなかつた場合には、原則として、縁組の意思のある他方の配偶者についても縁組は無効であるが、その他方と縁組の相手方との間に単独でも親子関係を成立させることが民法七九五条本文の趣旨にもとるものではないと認められる特段の事情がある場合には、…