従業員が満五五歳又は勤続満一〇年に達したときに定年となる旨の就業規則の定め及び退職金規程に基づき、勤続満一〇年に達したことを理由として退職金名義の金員の支給を受けた従業員の大部分が、その役職、給与、有給休暇の日数の算定等の労働条件に変化がないまま引き続き勤務しているなど判示のような事実関係があるときは、右就業規則の客観的な運用として従業員が勤続満一〇年に達したときは退職するのを原則的取扱いとしており、その後継続している勤務関係が単なる従前の勤務関係の延長ではなく新たな雇用契約に基づくものであるとの実質を有すること、又は右金員が定年延長若しくは退職年金制度の採用等の合理的な理由による退職金支給制度の実質的改変により精算の必要があつて支給されたものであること、若しくは継続している勤務関係がその性質内容、労働条件等において重大な変動を受け実質的には単なる従前の勤務関係の延長とはみられないこと等の特別の事実関係がないにもかかわらず、右金員を所得税法三〇条一項にいう退職所得にあたると認定判断することには、法令の解釈適用の誤り及び審理不尽の違法がある。 (反対意見がある。)
所得税法三〇条一項にいう退職所得にあたるかどうかの認定判断につき法令の解釈適用の誤り及び審理不尽の違法があるとされた事例
所得税法30条1項,民訴法394条
判旨
所得税法30条1項の「退職所得」とは、退職という勤務関係終了の事実によって初めて給付される等の要件を満たす必要があり、引き続き勤務を継続する場合であっても、実質的に退職と同様の事情が認められない限り給与所得に該当する。
問題の所在(論点)
勤務関係が外形上継続している場合に、特定の時点で支給された退職金名義の金員が、所得税法30条1項の「退職所得」に該当するか。
規範
「退職により一時に受ける給与」にあたるためには、(1)退職すなわち勤務関係の終了という事実によって初めて給付されること、(2)従来の継続的な勤務に対する報償ないし労務対価の後払いの性質を有すること、(3)一時金として支払われること、の3要件を要する。また、実質的にこれらと同様の性質を有するといえるためには、合理的な理由による退職金支給制度の精算の必要性や、勤務条件の重大な変動により、形式的な継続勤務が実質的に従前の延長とは認められないなどの特別の事実関係を要する。
重要事実
会社更生手続中の被上告人は、従業員の要望を受け「勤続満10年定年制」を導入し、定年に達した従業員に対し退職金を支給した。しかし、支給を受けた者の大半が引き続き勤務し、役職、給与、有給休暇、社会保険等の労働条件に一切の変化はなく、再雇用の選考手続も形骸化していた。原審は、租税回避目的がない等の事情を重視し「退職所得」にあたると判断したが、上告人がこれを争った。
あてはめ
本件では、従業員らは10年定年後も勤務継続を当然に予定しており、使用者側も退職金支給の制度的手当てとして本制度を設けたに過ぎない。支給後も労働条件や社会保険に変更はなく、実質的に勤務関係が終了したとは認められない。したがって、「勤務関係の終了という事実によって初めて給付される」という第1要件を欠く。また、制度改変に伴う精算の必要性や労働条件の重大な変動といった、退職所得と同一視すべき「特別の事実関係」も認められない。
結論
本件金員は勤務関係の終了を伴わず、実質的にも退職所得と同視できる特段の事情がないため、所得税法上の「退職所得」には該当せず、給与所得にあたる。
実務上の射程
退職所得の優遇措置を悪用した租税回避を防ぐ観点から、形式的な「定年」の定めがあっても、実質的な勤務関係の継続性や労働条件の変化を厳格に審査する判断枠組みを示した。実務上は、打切り支給や継続雇用時の適格性を判断する際のリーディングケースとなる。
事件番号: 昭和36(オ)1254 / 裁判年月日: 昭和37年10月2日 / 結論: 棄却
匿名組合契約の形式をとり、多くの人から資金を集めた場合にも、出資者が事業に参加する意思等も全くない場合は、右契約を、「匿名組合契約及びこれに準ずる契約」にあたらない。
事件番号: 昭和35(オ)4 / 裁判年月日: 昭和36年10月27日 / 結論: 棄却
出資者が隠れた事業者として事業に参加しその利益の分配を受ける意思を有せず、金銭を会社に利用させその対価として利息を享受する意思を持つていたに過ぎず、このことが、原判決認定の事情のもとに客観的にも認められる場合は、事業者と出資者との契約は、所得税法第一条第二項第三号にいう「匿名組合契約およびこれに準ずる契約」にあたらない…
事件番号: 昭和35(オ)54 / 裁判年月日: 昭和35年10月7日 / 結論: 棄却
一 いわゆる蛸配当、株主平等の原則に反する配当等のように、商法上不適法な配当であつても、所得税法上の利益配当のうちに含まれる。 二 いわゆる株主相互金融会社(原判決参照)における株主優待金は所得税法上の利益配当にあたらない。