市の道路用地買収交渉過程において、買収交渉事務担当の都市計画課長が、買収交渉の相手方に対して、市が買収ずみの土地のうち道路敷地に供しない特定の残地につき、他に優先者のない限り、将来これを右相手方に払い下げる、市長の承諾も得ている旨の説明をし、右相手方は右残地の払下げを期待して、当該買収対象土地の売買に応じた場合であつても、右課長には売買契約締結権限はなく、しかも、右課長が道路敷地残地の払下げ特約を売買契約書に明記するようにとの相手方の申出を市議会との関係上できないとしてこれを拒否し、もとより右残地部分の売買予約がされたり、右残地部分の払下げが右買収対象土地の売買の条件とされたものではないなど、判示の事実関係のもとにおいては、その後市が、他の買収対象者からの要望によりその者の所有土地を道路用地として獲得する手段としてこれと右残地とを交換し、右残地を前記売買契約の相手方に払下げなかつたとしても、右市の所為は、違法性がなく、不法行為とならない。
市の道路用地買収過程において買収交渉事務担当の課長が買収交渉の相手方に対し市が買収ずみの道路用地のうち道路敷地に供しない特定の残地を他に優先者のない限り払下げる旨の説明をし右相手方が右残地払下げを期待して当該買収対象土地の売買に応じたがその後の事情によつて右相手方に当該残地の払下げがされなかつたことが市の不法行為とはならないとされた事例
民法709条,民法715条
判旨
行政庁の担当職員による事実上の言辞から生じた払下げへの期待は、不確定な要素を含む事実上の期待的利益にすぎず、特段の事情がない限り、これを侵害する行政行為は不法行為法上の違法性を有しない。
問題の所在(論点)
行政庁の職員による払下げを示唆する言辞により生じた「優先的に払下げを受けうる法的地位(期待的利益)」の侵害が、民法709条の不法行為を構成するか。
規範
不法行為(民法709条)における被侵害利益の保護適格性と違法性は、当該利益の内容、性質に加え、加害行為の態様、程度を相関的に考慮して判断される。行政手続における期待的利益が侵害された場合であっても、それが不確定要素を含む事実上のものにとどまり、行政庁の行為に正当な目的・手段としての必要性が認められるときは、違法性は否定される。
重要事実
寝屋川市の都市計画課長Eは、道路用地買収交渉において被上告人に対し、買収協力者であり隣接地所有者であることから「他に優先者のない限り買収残地(本件土地)を払い下げる」旨を説明した。被上告人はこれを信頼して用地売却に応じ、払下げ後の営業準備を進めていた。しかし、市は別の買収協力者Gから道路用地の無償貸与等を受ける条件として、本件土地をGに交換譲渡することを決定し、被上告人への払下げは行われなかった。
あてはめ
まず、E課長には売買契約の締結権限がなく、払下げは市議会の承認事項であった。また、Eの言辞は従来の抽象的基準を示したにすぎず、契約書への明記も拒否されていることから、被上告人の地位は不確定的要因を含む「事実上の期待的利益」にすぎない。他方、市がGに土地を譲渡したのは、Gから別の道路用地を獲得するための有効な「手段」として行われたものである。したがって、被侵害利益の性質と行為の態様を照らせば、期待に反する結果となったとしても、市の行為に違法性があるとは認められない。
結論
被上告人の地位は事実上の期待的利益にとどまり、市による当該利益の侵害は不法行為法上の違法性を有しないため、損害賠償請求は認められない。
実務上の射程
行政上の約束(公的見解の表示)に基づき私人が行動した場合の信頼保護を、不法行為(709条)の枠組みで処理する際の重要判例。信義則による拘束力を限定的に解し、権限のない職員の言辞や不確定な期待については、行政の裁量的な政策判断(本件では代替地交換による用地確保)が優先される傾向を示す。
事件番号: 昭和36(オ)1303 / 裁判年月日: 昭和39年1月16日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】執行吏が対象物件に他人の権利が及んでいる可能性を認識しつつ、その旨を公表して競売を実施した場合、債権者・債務者の主張に基づき手続を続行したことに職務上の違法性や過失は認められない。 第1 事案の概要:執行吏Dは、伐倒木の競売にあたり、裁判所書記官から当該物件が仮処分の対象である可能性を指摘されてい…