一 地方公共団体が定めた一定内容の継続的な施策が、特定の者に対して右施策に適合する特定内容の活動をすることを促す個別的、具体的な勧告ないし勧誘を伴うものであり、かつ、その特定内容の活動が相当長期にわたる右施策の継続を前提としてはじめてこれに投入する資金又は労力に相応する効果を生じうる性質のものである場合において、右勧告等に動機づけられて右活動又はその準備活動に入つた者が右施策の変更により社会観念上看過することができない程度の積極的損害を被ることとなるときは、これにつき補償等の措置を講ずることなく右施策を変更した地方公共団体は、それがやむをえない客観的事情によるのでない限り、右の者に対する不法行為責任を免れない。 二 村長が特定の者に対しその者が村内で行う工場の建設・操業に全面的に協力することを言明し、村有地を工場敷地の一部として提供する旨の村議会の議決を経由したうえ積極的に工場建設を促し、右特定の者は右協力が継続するものと信じて工場敷地の確保・整備、機械設備の発注等を行い、村の側もこれを予想していたなど、判示の事実関係のもとにおいて、右工場建設に反対する村民の支持を得て当選した新村長が、右特定の者に生ずべき多額の積極的損害について補償等の措置を講ずることなく、右工場建設の途中でこれに対する協力を拒否した場合には、右協力拒否は、やむをえない客観的事情が存するのでない限り、右特定の者に対する違法な加害行為たることを免れない。
一 地方公共団体が一定内容の継続的な施策を決定し特定の者に対し右施策に適合する特定内容の活動を促す個別的具体的な勧告ないし勧誘をしたのち右施策を変更する場合と右特定の者に対する地方公共団体の不法行為責任 二 村が特定の工場の誘致を決定したのち新たに就任した村長において工場建設に対する協力を拒否する方針をとりこれによつて工場を設置しようとした者に損害を与えることが違法な加害行為にあたるものとされた事例
民法709条,国家賠償法1条1項
判旨
地方公共団体が特定の者に対し、継続的な施策を前提とした具体的な勧告・勧誘を行い、相手方がそれを信頼して多額の資金等を投入した場合、客観的にやむを得ない事情がない限り、代償的措置を講じない施策の変更は信義則上違法となり、不法行為責任を負う。
問題の所在(論点)
行政主体が一度決定した施策を変更する場合において、その施策を信頼して行動した特定の個人に対し、信義則上の不法行為責任を負うか。また、首長交代等の政治的情勢の変化が、変更を正当化する「やむを得ない客観的事情」にあたるか。
規範
地方公共団体が、特定の者に対し施策に適合する特定の活動を促す個別的・具体的な勧告ないし勧誘を行い、その活動が相当長期の施策継続を前提として初めて効果を生じる性質のものである場合、相手方の信頼は信義衡平の原則に照らし法的保護を受ける。したがって、代償的措置を講ずることなく施策を変更することは、それが「やむを得ない客観的事情」によるのでない限り、信頼関係を不当に破壊するものとして、不法行為(国家賠償法1条1項)上の違法性を帯びる。なお、単なる住民自治の原則や政治情勢の変化(首長交代等)のみをもって直ちに「やむを得ない客観的事情」にはあたらない。
重要事実
上告人(企業)は、被上告人(村)の村長および村議会から製紙工場の誘致・協力の言明を受け、村有地の譲渡や融資促進の依頼などの積極的な支援を得ていた。上告人はこれを信頼し、村長の了承の下、多額の機械設備の発注や敷地整地工事を完了させた。しかし、工場建設反対派の支持を得た新村長が就任すると、村は社会情勢の変化等を理由に一転して建築確認申請への不同意を通知し、工場の建設・操業は不可能となった。上告人は、信頼を不当に破られたとして積極的損害の賠償を求めた。
あてはめ
本件では、前村長が村議会の賛成の下で全面的協力を言明し、2年近く一貫して建設を促していた。上告人はこれに基づき、工場敷地の整備や機械発注等を行っており、これは村側も予想・期待していた事実である。工場操業は多額の資金投入と長期の継続を要するものであり、法的保護に値する信頼が形成されていたといえる。新村長が当選したという政治的情勢の変化は、直ちに信頼保護を否定する「やむを得ない客観的事情」とは認められない。村側が損害を解消する代償的措置を講じていない以上、協力拒否は違法な加害行為となり得る。
結論
村の協力拒否は、やむを得ない客観的事情や代償的措置がない限り、信義則に反し違法である。原審は政治情勢の変化のみで違法性を否定しており、審理不尽の違法があるため、破棄差戻しを免れない。
実務上の射程
行政上の信頼保護の原則が不法行為(国賠法)の文脈で認められた重要判例である。答案上は、①個別具体的な勧誘、②長期の継続を要する活動、③多額の資金等の投入、④信頼を裏切る施策変更、⑤やむを得ない事情や代償措置の欠如、という要素を検討する。行政計画の変更に伴う損失補償(憲法29条3項)の類推適用を議論する際にも、併せて検討すべき論点となる。
事件番号: 昭和28(オ)46 / 裁判年月日: 昭和31年6月5日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】行政庁が上位機関の指示や方針に従って申請を拒絶した場合、その方針が合理的な範囲内であり、行政庁がそれに忠実に従ったのであれば、その処分に違法はない。 第1 事案の概要:栃木県において「昭和23年度産米、甘藷供出実施要綱」が運用されていた。同県の方針では、供出割当が決定した後の農家人口の増加は、割当…
事件番号: 平成20(行ヒ)97 / 裁判年月日: 平成21年4月28日 / 結論: 破棄差戻
市の発注したごみ焼却施設の建設工事に関し業者らが談合をしたため市が損害を被ったにもかかわらず,市長が上記業者らに対する不法行為に基づく損害賠償請求権の行使を違法に怠っているとして,市の住民が地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの)242条の2第1項4号に基づき,市に代位して,怠る事実に係る相手方である上記業…