市の発注したごみ焼却施設の建設工事に関し業者らが談合をしたため市が損害を被ったにもかかわらず,市長が上記業者らに対する不法行為に基づく損害賠償請求権の行使を違法に怠っているとして,市の住民が地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの)242条の2第1項4号に基づき,市に代位して,怠る事実に係る相手方である上記業者らに対し損害賠償を求める訴訟において,次の(1)〜(3)などの判示の事情の下では,不法行為の成立を認定するに足りる証拠資料の有無等につき具体的に検討することなく,かつ,上記請求権の不行使を正当とするような事情が存在することにつき首肯すべき説示をすることなく,市長が上記請求権を行使しないことが違法な怠る事実に当たらないとした原審の判断には,違法がある。 (1) 上記訴訟の第1審判決前に公正取引委員会がした審決は,上記業者らのうち5社が地方公共団体の発注するごみ焼却施設の建設工事につき談合を行っていたとの事実を認定した上で,上記5社に対し排除措置を命ずるものであった。 (2) 上記訴訟の第1審判決は,上記5社が談合に関する基本合意に基づき市の発注した上記工事につき個別談合を行い,他の業者もこれに協力したという共同不法行為の事実を認定した上で,上記業者らに対する損害賠償請求を一部認容するものであった。 (3) 市長は,上記訴訟に提出された上記審決に係る審判事件の資料等を容易に入手することができた。
市の発注した工事に関し談合をしたとされる業者らに対して市長が不法行為に基づく損害賠償請求権を行使しないことが違法な怠る事実に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例
地方自治法(平成14年法律第4号による改正前のもの)242条の2第1項4号,地方自治法240条2項,地方自治法240条3項
判旨
地方公共団体の長が損害賠償請求権の行使を怠る事実が違法となるためには、客観的に不法行為の成立を認定するに足りる証拠資料を長が入手し、又は入手し得たことを要する。談合事案において、公正取引委員会の審決が未確定であっても、第一審判決や審決書の存在等により不法行為の成立を認定し得る状況にあれば、債権行使をしないことは「怠る事実」として違法となり得る。
問題の所在(論点)
地方公共団体の長が損害賠償請求権の行使をしないことが、地方自治法242条の2第1項4号の「怠る事実」として違法とされるための要件、および談合事案において審決の確定を待つことの合理性。
規範
1. 地方公共団体の長による債権の行使・不行使には原則として裁量は認められず、客観的に存在する債権を理由なく放置・免除することは許されない。2. ただし、不法行為に基づく損害賠償請求権のように存否が必ずしも明らかでない場合、その不行使が「違法に怠る事実」に当たるためには、客観的に見て不法行為の成立を認定するに足りる証拠資料を長が入手し、又は入手し得たことを要する。3. 独禁法25条の請求権行使が可能であることや、審決が未確定であることのみをもって、不法行為に基づく損害賠償請求権の不行使を正当化することはできない。
事件番号: 平成15(行ヒ)231 / 裁判年月日: 平成17年11月17日 / 結論: 破棄差戻
普通地方公共団体の財産の適正な対価によらない譲渡又は貸付けにつき地方自治法237条2項の議会の議決があったというためには,議会において当該譲渡等が適正な対価によらないものであることを前提として審議がされた上当該譲渡等を行うことを認める趣旨の議決がされたことを要する。
重要事実
尼崎市が発注したごみ焼却施設工事の指名競争入札において談合が行われた。公正取引委員会は排除勧告・審判開始決定を行い、後に排除措置命令(審決)を出したが、メーカー側はこれを取り消すべく提訴し、審決は確定していなかった。住民らは、市長が不法行為に基づく損害賠償請求権の行使を怠っているとして住民訴訟を提起。第一審は請求を一部認容したが、原審は、談合の立証は困難であり、審決確定を待って独禁法25条に基づく請求を選択することには合理性があるとして、怠る事実の違法性を否定した。
あてはめ
1. 公取委が談合の事実を認定して排除措置命令(別件審決)を出しており、住民訴訟の第一審判決も共同不法行為の事実を認定して損害賠償を命じていた。2. 市長は本件訴訟の当事者(当初被告)でもあり、証拠として提出された審決書や資料を容易に入手し得た。3. したがって、客観的に不法行為の成立を認定するに足りる証拠資料を入手し得たといえ、不法行為に基づく請求権行使に支障はなかった。4. 審決確定を待つ間に消滅時効が完成するおそれもあり、独禁法25条の請求が可能であるという一般的・形式的理由だけでは不行使を正当化できない。
結論
市長が被上告人らに対し損害賠償請求権を行使しないことは、客観的に見て不法行為の成立を認定し得る証拠資料を入手可能な状況にある以上、違法な「怠る事実」に該当し得る。
実務上の射程
住民訴訟(4号請求)における「怠る事実」の違法性判断基準を示す。特に談合等の立証が困難な事案でも、公取委の資料や関連訴訟の進捗により「証拠資料を入手し得た」といえる場合には、長の判断に裁量を認めず、直ちに法的措置を講じるべき義務を認める厳しい規範である。
事件番号: 平成10(行ヒ)51 / 裁判年月日: 平成14年7月2日 / 結論: 破棄自判
1 実体法上の請求権の行使を怠る事実を対象としてされた住民監査請求において,監査委員が当該怠る事実の監査を遂げるためには,特定の財務会計上の行為の存否,内容等について検討しなければならないとしても,当該行為が財務会計法規に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にはない場合には,当該監査請求に地方自治法2…
事件番号: 平成12(行ヒ)76 / 裁判年月日: 平成14年7月18日 / 結論: 棄却
日本下水道事業団が市から建設の委託を受けた施設の設備工事を業者に発注した場合において,業者らが談合した結果,同事業団と業者との間で不当に高額の代金で工事請負契約が締結され,委託者として最終的にその工事請負代金を負担する市に損害を与えたことが,上記業者らの市に対する不法行為に当たり,市は上記業者らに対し損害賠償請求権を有…
事件番号: 平成18(行ヒ)168 / 裁判年月日: 平成20年3月17日 / 結論: 破棄差戻
県警察本部の県外出張に係る旅費の支出について住民監査請求がされた場合において,当該住民が県の情報公開条例に基づき上記出張に関する資料の開示を求めたところ,当初は,上記出張の旅行期間,目的地,用務等の事項が開示されず,その部分開示決定に対する異議申立ての結果,初めてこれらの事項が開示されるに至り,その1か月後に上記監査請…
事件番号: 平成19(行ヒ)215 / 裁判年月日: 平成20年11月27日 / 結論: 破棄自判
県が,退職した教職員に支払う退職手当に係る源泉所得税を国に納付するに当たり,その納付に必要な県知事の出納長に対する払出しの通知が遅滞した結果,法定納期限後の納付となり,延滞税及び不納付加算税の納付を余儀なくされた場合において,上記遅滞の原因は上記払出通知を専決処理する権限を有する教育委員会財務課長からその事務を任されて…