借家法七条による賃料増額請求がされ、増額の効力が生じたのち、更に増額を相当とする事由が生じても、新たな増額請求がされない限り、再度増額の効力を生ずるものではなく、このことは、賃料確定又は賃料支払請求訴訟が維持継続されている間に右事由が生じた場合であつても、同様である。
借家法七条による賃料増額請求に基づく賃料確定又は賃料支払請求訴訟の維持継続中に増額を相当とする事由が生じた場合における増額の効力発生の有無
借家法7条
判旨
賃料増額請求による効果は、賃貸人の増額請求(形成権の行使)によって初めて生じ、増額を相当とする事由があるだけでは当然に増額されない。これは、過去の増額請求に関する訴訟の継続中に、更なる増額を相当とする事由が生じた場合であっても同様である。
問題の所在(論点)
賃料増額請求権の行使による賃料増額の効果は、賃貸人の請求を待たず、増額を相当とする事由が発生することによって当然に生じるか。特に、増額請求に関する訴訟の追行中に更なる増額事由が生じた場合、新たな請求が必要か。
規範
賃料増額請求権(借地借家法32条1項、旧借家法7条)は形成権であり、その効果は賃貸人による増額請求があって初めて、請求額の範囲内で、かつ客観的に相当とされる額について生じる。したがって、増額を相当とする客観的事由が存在していても、賃貸人による新たな請求を待たずに賃料が当然に増額されることはない。この理は、既になされた増額請求に基づく訴訟が継続している間に、さらに増額を相当とする事由が生じた場合であっても、重ねて増額請求の手続(意思表示)を要するという意味で維持される。
重要事実
賃貸人(被上告人)は賃借人(上告人)に対し、昭和43年9月1日以降の賃料を月額1万5500円に増額する旨の請求を行い、その未払分の支払等を求めて提訴した。原審は、当該増額を正当と認めた上で、さらに昭和47年2月1日以降については、特段の増額請求の事実を確認しないまま、経済情勢の変化等の事由により賃料が月額2万円に増額されたと認定し、その差額の支払を命じた。
あてはめ
賃料増額は形成権の行使を要件とするものである。本件において、原審は昭和47年2月1日以降の賃料が月額2万円に増額されたと判断したが、その前提となる賃貸人からの新たな増額請求の有無を確定していない。たとえ昭和43年の請求に基づき訴訟を追行中であっても、その後に生じた事由に基づく更なる増額を主張するには、改めて増額の意思表示(請求)が必要である。しかるに、請求の存否を明らかにせず増額を認めた原審の判断は、旧借家法7条の解釈を誤り、理由不備の違法があるといえる。
結論
賃料増額の効果は増額請求があって初めて生じるため、更なる増額請求の事実を確定せずに当然に賃料が増額したと判断した原判決は破棄を免れない。
実務上の射程
賃料増額請求が「形成権」であることを確認する基礎的な判例である。答案上は、増額請求の遡及効の範囲や、訴訟継続中に不動産価格が更に高騰した場合に、追加の増額請求(通知)を忘れてはならない実務上の留意点を示す際に引用すべき射程を持つ。
事件番号: 昭和38(オ)1365 / 裁判年月日: 昭和40年12月10日 / 結論: 棄却
賃料増額の請求がなされた場合には、従前の賃料額と適正増額賃料額との差が僅少である等信義則上従前の賃料額の提供をもつて債務の本旨に従つた履行の提供とみられるような特別の事情があるときのほか、債務者は、従前の賃料額をもつて相当であると考えたとしても、従前の賃料額を提供しただけでは、履行遅滞の責を免れない。
事件番号: 昭和42(オ)1010 / 裁判年月日: 昭和43年7月5日 / 結論: 棄却
借地法第一二条による賃料増額請求があつた場合、裁判所は同条所定の諸契機を考量し、具体的事実関係に即し、相当賃料を確定すべきであり、その際、底地価格に利子率を乗ずる算定方法(土地価格の利廻り算定方式)も一つの合理的尺度として使用できるものではあるが、この算定方法が他の合理的算定方法に比して本則であるとまで解すべきものでは…