戸籍上家督相続人と表示され右家督相続によつて不動産の所有権を取得したと主張する甲が、右不動産を占有している乙を被告として右不動産所有権の確認を求める請求は、乙が甲の家督相続を争つているときでも、乙が戸籍上家督相続人と表示されておらず、乙みずからが真正家督相続人であると主張しているわけではなく、単に真正家督相続人が判明するまでの間その者のために一種の事務管理として右不動産を管理しているにすぎない場合には、家督相続回復請求権の行使にあたらない。
家督相続回復請求権の行使にあたらない場合
旧民法(昭和22年法律第222号による改正前のもの)966条,民法884条
判旨
表見相続人等による相続権の侵害がない場合、単に家督相続の効力を争っているにすぎない事案においては、相続回復請求権の規定は適用されず、消滅時効の主張も認められない。
問題の所在(論点)
自ら相続人であると主張せず、事務管理として相続財産を占有・管理しているにすぎない者に対し、相続権の主張を争う請求が「相続回復請求」に該当し、消滅時効の規定が適用されるか。
規範
相続回復請求権(旧法下の家督相続回復請求を含む)の規定が適用されるのは、真正相続人が表見相続人(相続権がないにもかかわらず相続人として事実上相続財産を占有・管理する者)によってその相続権を侵害されている場合に限られる。自ら相続人であると主張せず、また戸籍上の記載もない者が、真正相続人の判明までの事務管理として財産を管理しているにすぎない場合は、相続権の侵害にはあたらない。
重要事実
上告人は、D家の戸籍上に相続人として記載されておらず、自ら家督相続人であるとも主張していなかった。上告人は、戦後の混乱期において本件土地の所有権申告を行い、位牌とともに土地を管理していたが、これは真正な家督相続人が判明するまでの間、その者のために一種の事務管理として行っていたものであった。その後、被上告人らの先代Eの家督相続を上告人が争ったため、被上告人らが提訴したところ、上告人は相続回復請求権の消滅時効を主張した。
事件番号: 昭和39(オ)720 / 裁判年月日: 昭和42年6月20日 / 結論: 棄却
占有の開始は相続によるもので取引によるものではなくその他判示事実関係のもとにおいては土地登記簿を調査しなかつたことをもつて占有のはじめ過失があつたとすることはできない。(本件は、昭三七、五、一八、二小法廷判決集一六巻五号一〇七三頁の再上告事件である。)
あてはめ
上告人は、戸籍上の相続人ではなく、自ら家督相続人であるとの主張もしていない。また、本件土地の管理も、真正相続人のための「事務管理」として行われていたものにすぎない。このような状況下では、上告人は「表見相続人」として相続権を侵害しているとは評価できない。したがって、上告人が被上告人側の相続を争っている事実はあるものの、本件訴訟は相続権の侵害を排除する相続回復請求には該当しないため、同請求権に特有の消滅時効(期間制限)の適用を検討する余地はない。
結論
本件訴訟は家督相続回復請求にあたらず、上告人による消滅時効の主張は認められない。
実務上の射程
相続回復請求権の成否が問題となる場面において、「表見相続人」の該当性を判断する基準を示すものである。特に、占有・管理の権原が「事務管理」にとどまり、自ら相続人であると仮称していない場合には、相続回復請求の枠組みではなく、通常の所有権に基づく請求等として処理すべきであることを示唆している。
事件番号: 昭和52(オ)456 / 裁判年月日: 昭和54年4月17日 / 結論: 棄却
共同相続人甲乙が他の共同相続人丙を排除して相続財産を占有管理している場合において、甲乙が他に共同相続人として所在不明ではあるが丙のいることを知つており、第三者から相続財産中の不動産買受の申入れがあつた際丙が所在不明で所有権移転登記が困難であるため申入れに応じなかつた、との事情があるときは、丙の相続権侵害排除請求又は遺産…
事件番号: 昭和44(オ)727 / 裁判年月日: 昭和45年2月26日 / 結論: 棄却
民法一六二条にいう公然の占有とは、占有者が、占有の存在を知るにつき利害関係を有する者に対して、占有の事実をことさら隠蔽しないことをいうものと解すべきである。
事件番号: 昭和53(オ)6 / 裁判年月日: 昭和54年4月17日 / 結論: 棄却
共同相続人の一人甲が、他の共同相続人乙丙の承諾を得ることなく乙丙名義で相続放棄申述をし、これに基づき相続財産に属する不動産につき甲単独名義の相続登記をして乙丙の相続権を侵害している場合においては、右侵害排除の趣旨で甲単独名義の登記を甲乙丙共有名義の登記に更正することを求める乙丙の請求について、民法八八四条は適用されない…