共同相続人甲乙が他の共同相続人丙を排除して相続財産を占有管理している場合において、甲乙が他に共同相続人として所在不明ではあるが丙のいることを知つており、第三者から相続財産中の不動産買受の申入れがあつた際丙が所在不明で所有権移転登記が困難であるため申入れに応じなかつた、との事情があるときは、丙の相続権侵害排除請求又は遺産分割請求について、民法八八四条は適用されない。 (意見がある。)
共同相続人の一部の者によつて相続権を侵害された他の共同相続人の右侵害排除を求める請求について民法八八四条の適用がないとされた事例
民法884条
判旨
共同相続人間における相続回復請求権の消滅時効(民法884条)の適用について、共同相続人の一人が他の共同相続人の相続権を否定せず、その存在を認識している場合には、同条の適用はない。
問題の所在(論点)
共同相続人の一人が相続財産を占有管理している場合に、他の共同相続人からの請求に対し、民法884条(相続回復請求権の消滅時効)の適用・援用が認められるか。
規範
共同相続人相互間における相続持分権侵害の紛争についても民法884条の適用を当然に否定すべきではないが、占有管理している共同相続人が、他の共同相続人の存在およびその相続権を認識している場合には、同条の適用を否定すべきである。
重要事実
被相続人Dの死後、共同相続人である被上告人と上告人ら3名のうち、上告人らのみが相続財産を占有管理していた。上告人らは、被上告人が所在不明ではあるものの共同相続人であることを知っていた。そのため、上告人らは相続財産の一部について第三者から買受申入れがあった際、被上告人が所在不明で登記手続きが困難であることを理由に売却を取りやめていた。その後、被上告人による持分権侵害排除請求等に対し、上告人らが民法884条の消滅時効を援用した。
あてはめ
上告人らは、自己のほかに被上告人が共同相続人として存在することを認識しており、その相続権を否定していなかった。具体的には、被上告人の所在不明により登記が困難であることを理由に売却を断念するなど、被上告人の持分を意識した行動をとっている。このような事案においては、上告人らを「表見相続人」として保護する必要はなく、相続回復請求権の短期消滅時効を認める制度趣旨に合致しないため、民法884条の適用はないと解される。
結論
上告人らは民法884条所定の消滅時効を援用して被上告人の請求を拒むことはできず、被上告人の相続持分権は否定されない。
実務上の射程
共同相続人間での民法884条の適否を判断する際のリーディングケースである。判例は、占有者が「自らのみが相続人である」と信じているような真正な表見相続人の場合に限定して同条を適用し、他者の相続権を知りながら占有する者には適用を認めない(主観的要件による限定)。答案上は、占有者の善意・無過失の有無を検討する際の規範として活用する。
事件番号: 昭和53(オ)6 / 裁判年月日: 昭和54年4月17日 / 結論: 棄却
共同相続人の一人甲が、他の共同相続人乙丙の承諾を得ることなく乙丙名義で相続放棄申述をし、これに基づき相続財産に属する不動産につき甲単独名義の相続登記をして乙丙の相続権を侵害している場合においては、右侵害排除の趣旨で甲単独名義の登記を甲乙丙共有名義の登記に更正することを求める乙丙の請求について、民法八八四条は適用されない…
事件番号: 昭和56(オ)27 / 裁判年月日: 昭和56年9月29日 / 結論: 棄却
被告の単独所有名義を原告らと被告との共有名義に更正すべき旨の登記手続を命ずる判決主文においては、更正後の登記事項として、原告らの共有持分だけでなく、被告に帰属する共有持分をも明らかにすべきである。 (意見がある。)
事件番号: 昭和36(オ)680 / 裁判年月日: 昭和38年7月9日 / 結論: 棄却
後見人が被後見人の所有土地を同人のために占有していたにすぎない場合には、後見人が自ら所有の意思を以て占有したものとはいえない。