競売開始決定に対する異議手続は競売手続を進行させるか否かを決定するものに外ならず、抵当権の存否それ自体について既判力を生ずるものではないから、公開法廷において審理しなくても、憲法第三二条、第八二条に反しない。
競売開始決定に対する異議手続と憲法第三二条および第八二条
憲法32条,憲法82条
判旨
競売開始決定に対する異議手続は、抵当権の存否を確定し既判力を生じさせるものではないため、公開法廷での審理を必要とせず、憲法32条および82条に違反しない。
問題の所在(論点)
競売開始決定に対する異議手続が、公開法廷における審理を要する「訴訟事件」に該当するか、あるいは憲法82条の適用を受けない手続であるか。
規範
憲法82条1項が定める対審および判決の公開原則は、純然たる訴訟事件、すなわち、終局的に法律上の争訟を解決し既判力を生じさせる手続に適用される。これに対し、権利関係の存否それ自体を確定せず、手続の進行の可否を決定するにすぎない非訟的手続(執行手続等)においては、必ずしも公開法廷での審理を要しない。
重要事実
抗告人は、抵当権に基づき開始された競売手続において、競売開始決定に対する異議を申し立てた。当該異議手続が公開法廷における審理を経ずに行われたことに対し、抗告人は、裁判を受ける権利(憲法32条)および対審・判決の公開(憲法82条)の規定に違反するものであると主張して特別抗告を申し立てた。
事件番号: 昭和42(ク)350 / 裁判年月日: 昭和42年12月15日 / 結論: 棄却
抵当権の不存在を理由とする競売開始決定に対する異議事件の裁判は、公開の法廷における審理を経なくても、憲法第三二条、第八二条に違反しない。
あてはめ
抵当権の存否自体を確定し、既判力を生じさせるためには、別途「抵当権存否確認の訴」という訴訟手続が認められている。本件の競売開始決定に対する異議手続は、競売手続を進行させるか否かを決定する執行手続上の判断にすぎず、実体法上の権利関係について既判力を生じさせるものではない。したがって、本手続は憲法82条が予定する対審の公開を必要とする性質の事件ではないといえる。
結論
競売開始決定に対する異議手続を非公開で行うことは、憲法32条および82条に違反しない。
実務上の射程
執行・保全手続や家事審判手続などの「非訟事件」において、憲法82条の公開原則が及ぶか否かを判断する際のリーディングケースである。答案上は、既判力発生の有無を基準に、訴訟事件と非訟事件を区別する文脈で使用する。
事件番号: 昭和39(ク)172 / 裁判年月日: 昭和39年6月30日 / 結論: 棄却
口頭弁論を経ずして強制執行停止を命ずる裁判をしても憲法第八二条に違反するものではない。
事件番号: 昭和63(ク)304 / 裁判年月日: 昭和63年10月6日 / 結論: 棄却
民事執行法八三条による引渡命令の裁判は、憲法三二条、八二条に違反しない。
事件番号: 昭和46(ク)419 / 裁判年月日: 昭和46年12月21日 / 結論: 棄却
強制競売における競落許可決定およびその抗告審の決定をなすにつき、口頭弁論または当事者の審尋を経ないでも、憲法三二条、八二条の規定に違反するものではない。
事件番号: 昭和58(ク)149 / 裁判年月日: 昭和58年7月7日 / 結論: 棄却
民事執行法一一条の執行異議申立棄却の決定に対し即時抗告による不服申立の方法を認めるかどうかは、立法政策の問題に帰着し、同法一〇条一項、一二条一項が憲法三二条に違反するかどうかの問題を生じない。