営業に関し一般的権限をもつていた番頭が、特定の事項につき代理権を剥奪されたことは、その代理権に加えられた制限というべきである。
商法第四三条第二項(第三八条第三項)の法意
商法43条
判旨
物品購入および代金支払の権限を有する使用人が、従前認められていた手形振出を禁止されたことは、商法上の支配人の代理権に加えられた制限に該当する。また、かかる制限に違反した手形振出行為について、会社は善意の第三者に対して責任を負うべきであり、その性質が偽造に当たるか否かは結論に影響しない。
問題の所在(論点)
物品購入等の権限を有する使用人が、禁止されていた手形振出を会社代表者名義で行った場合、会社は善意の第三者に対して責任を負うか。また、その行為が偽造に該当する場合であっても、会社は責任を負うべきか。
規範
商法上の支配人またはこれに準ずる権限を有する使用人の権限に加えられた制限は、善意の第三者に対抗することができない(商法21条3項参照)。また、使用人が権限外の行為として代表者名義を冒用して手形を振り出した場合であっても、表見代理またはこれに類する法理により、会社は善意の第三者に対してその責任を免れることはできない。
重要事実
上告会社の使用人Dは、会社の営業に関し物品購入および代金支払の権限を有していた。Dは、従前は会社代表者名義による約束手形の振出を認められていたが、後に会社から手形振出を禁止された。しかし、Dはこの制限に反し、本件手形を振り出した。手形の所持人(第三者)が善意である状況下で、会社がDの手形振出行為について責任を負うか、また当該行為が偽造に当たるかが争点となった。
あてはめ
Dは物品購入や代金支払という営業に関する包括的な権限を有しており、商法上の支配人と同様の地位、あるいは番頭としての地位にあった。会社による「手形振出の禁止」は、これら包括的な権限(代理権)の一部を制限するものと解される。したがって、商法21条3項の趣旨に照らし、かかる内部的な制限は善意の第三者に対抗できない。さらに、Dが代表者名義を冒用して手形を作成したという「偽造」の側面があったとしても、外観上は権限ある使用人の行為としてなされた以上、善意の第三者を保護すべき必要性は変わらず、会社は責任を負うのが相当である。
結論
上告会社は、善意の第三者に対し、使用人Dがなした本件手形の振出につき責任を負う。当該行為が偽造に当たると否とにかかわらず、この結論は左右されない。
実務上の射程
支配人(またはそれに準ずる使用人)の代理権に加えられた「制限」の解釈を示す。特に、手形振出のような重要な行為を禁止しても、それが「代理権の制限」にとどまる限り、善意の第三者に対抗できないという商法の基本原則を、偽造の成否が問題となる場面でも維持した点に意義がある。答案上は、表見代理や支配人の代理権制限の論点で引用すべき判例である。
事件番号: 昭和33(オ)204 / 裁判年月日: 昭和36年12月8日 / 結論: 破棄差戻
【結論(判旨の要点)】ある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、その事項に関する手形行為を行う権限を有し、代理権に加えた制限は善意の第三者に対抗できない。また、民法110条を適用する場合の「第三者」には、直接の相手方のみならず、その後手形を取得した所持人も含まれる。 第1 事案の概要:使用人Dは、被上告会社において…