判旨
ある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は、その事項に関する手形行為を行う権限を有し、代理権に加えた制限は善意の第三者に対抗できない。また、民法110条を適用する場合の「第三者」には、直接の相手方のみならず、その後手形を取得した所持人も含まれる。
問題の所在(論点)
1. 会計・金融交渉・手形事務を広範に委任された使用人が、商法25条(旧43条)の「ある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人」として手形行為を行う権限を有するか。 2. 民法110条(表見代理)にいう「第三者」に、手形の直接の相手方ではない後続の手形所持人が含まれるか。
規範
1. 商法25条(旧43条)1項にいう「営業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人」は、その委任を受けた事項に関し、一切の裁判外の行為をなす権限を有し、これには当該事項に関する手形行為も含まれる。同条3項により、代理権に加えた制限は善意の第三者に対抗できない。 2. 表見代理(民法110条)の規定を適用する際、手形の流通証券としての性質に鑑み、同条の「第三者」には直接の相手方だけでなく、その後の手形所持人も含まれる。
重要事実
使用人Dは、被上告会社において会計事務を担当し、銀行との金融交渉や仕入先に対する手形振出事務に従事していた。Dは取締役の承諾なく会社名義の本件手形を引き受けた。原審は、Dが商法上の支配人ではないことを理由に会社の責任を否定し、また民法110条の「第三者」を直接の相手方に限定して、所持人である上告人の保護を否定したため、上告人が不服を申し立てた。
あてはめ
1. Dは会計事務、金融交渉、手形振出事務という広汎な事項の委任を受けていた。これは営業に関する特定の事項の委任を受けた使用人に該当し、その所管事務の範囲内であれば、当然に手形行為を行う権限を有する。代理権に対する内部的な制限は、上告人が悪意でない限り対抗できない。 2. 手形は転々流通する性質を有するため、直接の相手方のみを保護対象とするのは不当である。取引の安全を図る民法110条の趣旨から、善意の所持人であれば「第三者」として保護されるべきである。
結論
Dが商法25条(旧43条)の使用人に該当し、かつ上告人が代理権の制限について善意である以上、会社は手形上の責任を免れない。また、上告人は民法110条の「第三者」に含まれ得る。原判決を破棄し差し戻す。
実務上の射程
特定の事項の委任を受けた使用人の権限範囲に手形行為が含まれることを明示した重要判例。また、補足意見ではあるが、表見代理の「第三者」に転得者(後続の手形所持人)を含むとする判断は、手形法上の表見代理を論じる際の標準的な規範として機能する。
事件番号: 昭和40(オ)1 / 裁判年月日: 昭和40年7月30日 / 結論: 棄却
営業に関し一般的権限をもつていた番頭が、特定の事項につき代理権を剥奪されたことは、その代理権に加えられた制限というべきである。