判旨
手形債務者は、自己と直接の関係のない他者間の裏書の原因関係が消滅したとしても、これを理由に手形所持人からの支払請求を拒むことはできない。
問題の所在(論点)
手形債務者は、自己が直接の当事者ではない「裏書人とその被裏書人(所持人)との間の原因関係の消滅」を理由として、所持人からの手形金請求を拒むことができるか。いわゆる「他人の抗弁」の可否が問題となる。
規範
手形上の権利は、裏書の直接の当事者間における原因関係の消滅等によって当然に影響を受けるものではない。したがって、手形債務者は、自己と直接の関係のない前者の原因関係の欠缺や消滅を、人的抗弁として手形所持人に対抗することはできない。
重要事実
上告人は為替手形の手形債務者であり、株式会社Dは当該手形の裏書人、被上告人はその被裏書人(手形所持人)であった。上告人は、裏書人Dと被裏書人である被上告人との間の原因関係が消滅したことを理由に、被上告人からの手形金請求の支払を拒絶した。
あてはめ
本件において、上告人が主張する原因関係の消滅は、裏書人Dと被上告人との間の事由である。上告人はこの原因関係の直接の当事者ではない。手形上の権利は原因関係から独立しており、直接の当事者間においてのみ抗弁として機能し得るに過ぎないから、上告人と直接の関係がない事情を支払拒絶の理由とすることはできないと解される。
結論
上告人は、自己と直接の関係のない裏書原因関係の消滅を主張して手形金の請求を拒むことはできない。したがって、上告人の抗弁を排斥した原審の判断は正当である。
実務上の射程
手形の無因性を前提に、「他人の抗弁」の主張を原則として否定した射程の極めて広い判決である。答案上は、手形法17条の人的抗弁の制限の文脈で、債務者自身に帰属しない抗弁(他人の抗弁)を主張することの可否を論じる際の論拠となる。
事件番号: 昭和31(オ)1051 / 裁判年月日: 昭和33年5月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】手形の振出人は、特段の事情がない限り、受取人が所持人に対して有する人的抗弁を援用して支払を拒絶することはできない。 第1 事案の概要:上告人(振出人)は、被上告人(手形所持人)に対し、訴外D産業株式会社(受取人)が被上告人に対して有しているはずの人的抗弁を理由として、手形金支払債務の履行を拒んだ。…
事件番号: 昭和33(オ)638 / 裁判年月日: 昭和35年2月11日 / 結論: 棄却
書替前の旧手形を取得した際に人的抗弁事由の存在を知らなかつた者に対しては、書替後の新手形について悪意の抗弁を対抗することはできない。