甲が乙の言により、乙所有の土地(六反九畝二三歩)が水田に適する土地であつて、乙に対する損害賠償債権額一〇〇万円にほぼ見合うものと信じて右土地を目的とする代物弁済契約を締結したが、右土地は現状のままでは殆んど耕作に適しない不毛地であり、それを耕地に造成するには多額の経費を要して到底引き合わず、右土地の価格がいうに足りないもの(反当り二〇〇〇円ないし二五〇〇円)であるときは、右代物弁済契約における甲の意思表示は、目的物件の価値について錯誤があり、右錯誤は、法律行為の要素に関するものであるといえる。
代物弁済契約の目的物の価値について要素の錯誤があるとされた事例。
民法95条,民法482条
判旨
代物弁済契約において、目的物件の価値に関する錯誤が法律行為の要素に関するものである場合、当該契約は民法95条(改正前)により無効となる。
問題の所在(論点)
代物弁済契約の目的物たる土地の価値が、当事者の想定と著しく異なり、事実上無価値であった場合、その錯誤は「法律行為の要素」に関するものといえるか(民法95条の適用範囲)。
規範
意思表示の目的物に存する性質や価値に関する錯誤が、その意思表示をなすにあたっての主観的な動機にとどまらず、法律行為の内容として表示され、かつその欠缺がなければ表意者が意思表示をしなかったであろうと認められる場合には、法律行為の要素に関する錯誤にあたる。
重要事実
被上告人は、上告人に対し100万円の損害賠償債権を有していた。上告人の言を信じ、本件土地が水田に適し、かつ上記債権額に見合う価値があると誤信して、本件土地を給付対象とする代物弁済契約を締結した。しかし、実際の本件土地は耕作に適さない不毛地であり、耕地造成には多額の経費を要して採算が合わず、土地価格も極めて低額(反当たり2000円〜2500円)であった。
あてはめ
被上告人は、100万円の債権消滅という法律上の効果を発生させるにあたり、本件土地がその対価に見合う価値を有することを前提としていた。しかし、実際には本件土地は不毛地で価値がほとんどなく、債権額と著しく不均衡である。このような価値の著しい差異は、単なる動機の錯誤にとどまらず、取引の目的を達成し得ないほどの重大な隔たりがあるといえる。したがって、この錯誤は法律行為の基礎となる重要な事項に及び、被上告人において土地の真実の状況を知っていれば契約を締結しなかったと認められるため、要素の錯誤にあたると解される。
結論
本件代物弁済契約には法律行為の要素に錯誤があるため、民法95条により無効である。
実務上の射程
本判決は旧法下の判断であるが、改正民法95条における「動機の錯誤(基礎とされた事情の錯誤)」の該当性判断においても、目的物の価値の不均衡が契約の目的達成を著しく困難にする場合には、その錯誤が「重要」であると認定する際の有力な論拠となる。
事件番号: 昭和38(オ)1111 / 裁判年月日: 昭和39年5月23日 / 結論: 棄却
債務額一三七万円の約四・五倍にあたる六〇九万五千円余の価額を有する土地および建物を目的とする代物弁済契約であつても、相手方の窮迫、軽卒に乗じ不当な利益を獲得する目的でしたものと認められない以上、右代物弁済契約は、民法第九〇条により無効であるとはいえない。
事件番号: 昭和26(オ)752 / 裁判年月日: 昭和29年3月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地売買において、公租公課や都市計画による減歩の程度が契約の前提と著しく異なり、その不保持が契約の目的達成を困難にする場合には、意思表示の要素に錯誤があるものとして契約は無効となる。 第1 事案の概要:買主(被上告人)は、本件土地(約50坪)の売買に際し、東北端の約2坪が道路として削られる(減歩さ…