判旨
土地売買において、公租公課や都市計画による減歩の程度が契約の前提と著しく異なり、その不保持が契約の目的達成を困難にする場合には、意思表示の要素に錯誤があるものとして契約は無効となる。
問題の所在(論点)
土地売買において、買主が想定していた都市計画による減歩面積と実際の減歩面積が著しく異なる場合、民法95条(旧法)の「法律行為の要素に錯誤」があるといえるか。
規範
法律行為の要素に錯誤があるというためには、表意者が意思表示の内容の主要な点について認識と真実との相違があり、かつ、その相違がなければ表意者のみならず一般通常人もその意思表示をしなかったであろうと認められることを要する。
重要事実
買主(被上告人)は、本件土地(約50坪)の売買に際し、東北端の約2坪が道路として削られる(減歩される)程度であれば建物建築等に支障がないと考え、それ以上の減歩はされないことを契約の前提(要素)としていた。しかし、実際には都市計画により全体の約35%に及ぶ約17.5坪が減歩されることが判明した。
あてはめ
買主は「2坪程度の減歩であれば差し支えないが、それ以上の減歩はされないこと」を契約の要素としていた。これに対し、実際の減歩面積は約17.5坪という多大なものであり、当初の認識と客観的事実との間に著しい乖離が存在する。このような大幅な面積減少は、建物の利用可能性や土地の価値に重大な影響を及ぼすものであり、表意者にとっても一般通常人にとっても、かかる事実を知っていれば契約を締結しなかったといえるほど重要な事項である。したがって、本件売買契約は要素の錯誤に該当する。
結論
本件売買契約には要素に錯誤があり、無効である。
実務上の射程
事件番号: 昭和39(オ)406 / 裁判年月日: 昭和39年9月25日 / 結論: 棄却
原判決の認定した事情のもとでは、本件土地の売買契約においては、軍用地として使用されるべきことが右売買の動機として相手方たる大阪府に表示されているものであつて、本件土地が軍のため使用されないようなときには、重要な事実について売主たる学校法人は錯誤であつたものとして、右売買は無効である。
本判決は旧民法下の事案であるが、改正後の民法95条1項2号(動機の錯誤)および同2項(動機の表示)の枠組みで活用できる。都市計画等の公法上の規制に関する誤認が、明示または黙示に表示された場合には「基礎とした事情が真実と反する」ものとして、取消事由(旧法下では無効事由)となり得ることを示す射程を持つ。
事件番号: 昭和30(オ)538 / 裁判年月日: 昭和32年5月21日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】売買契約において、当事者が客観的に特定の範囲の土地建物を売買する意思を持って意思表示をした以上、単に土地の地番や登記上の齟齬を後日認識したとしても、内心的効果意思と表示上の効果意思に不一致はなく、要素の錯誤は成立しない。 第1 事案の概要:売主Aは買主に対し、一号宅地とこれに隣接する係争宅地にまた…
事件番号: 昭和63(オ)385 / 裁判年月日: 平成元年9月14日 / 結論: 破棄差戻
協議離婚に伴い夫が自己の不動産全部を妻に譲渡する旨の財産分与契約をし、後日夫に二億円余の譲渡所得税が課されることが判明した場合において、右契約の当時、妻のみに課税されるものと誤解した夫が心配してこれを気遣う発言をし、妻も自己に課税されるものと理解していたなど判示の事実関係の下においては、他に特段の事情がない限り、夫の右…
事件番号: 昭和34(オ)632 / 裁判年月日: 昭和35年9月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判上の自白の取消しには、自白が真実に反し、かつ錯誤に基づいたものであることの証明を要するが、自白が真実に反することが証明された場合には、特段の事情がない限り、錯誤によるものと推認される。 第1 事案の概要:被上告人(原告)は、本件不動産の所有権に基づき、上告人(被告)らに対して所有権移転登記の抹…
事件番号: 昭和24(オ)209 / 裁判年月日: 昭和26年4月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法律行為の要素に錯誤があるというためには、意思表示の時点において当該事情が契約の必須の要件とされている必要がある。契約成立後に生じた事情や合意は、特段の事情がない限り、契約締結時における意思表示の要素の錯誤を構成しない。 第1 事案の概要:上告人(売主)は本件家屋の売買契約を締結したが、後に「期限…