原判決の認定した事情のもとでは、本件土地の売買契約においては、軍用地として使用されるべきことが右売買の動機として相手方たる大阪府に表示されているものであつて、本件土地が軍のため使用されないようなときには、重要な事実について売主たる学校法人は錯誤であつたものとして、右売買は無効である。
表示された動機の錯誤によつて売買が無効とされた事例。
民法95条
判旨
意思表示の動機が相手方に表示され、法律行為の内容となった場合には、その動機に係る事項の錯誤は要素の錯誤にあたる。本件では軍用地への転用という動機が表示されていたため、その不成立は売買契約の無効(現行法上の取消し)を基礎付ける。
問題の所在(論点)
意思表示の動機に錯誤がある場合(動機の錯誤)において、いかなる要件を満たせば民法95条(旧法下の無効、現行法の取消し)を適用できるか。特に動機の表示の要否が問題となる。
規範
意思表示の形成過程における動機に錯誤がある場合であっても、その動機が相手方に表示され、法律行為の内容となったときは、法律行為の「要素」に錯誤があるものとして、錯誤による無効(現行法における取消し)を主張し得る。
重要事実
被上告人(売主)は、本件土地が軍の用地として使用される予定であることを条件に、上告人(買主)へ土地を売り渡した。契約書には「緑地拡張のため」との記載があったが、実際には軍用地として使用される予定はなく、被上告人においてその事実を知っていれば売買契約を締結する意思はなかった。また、この軍用地転用という事情は、相手方である上告人に対しても示されていた。
事件番号: 昭和26(オ)752 / 裁判年月日: 昭和29年3月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】土地売買において、公租公課や都市計画による減歩の程度が契約の前提と著しく異なり、その不保持が契約の目的達成を困難にする場合には、意思表示の要素に錯誤があるものとして契約は無効となる。 第1 事案の概要:買主(被上告人)は、本件土地(約50坪)の売買に際し、東北端の約2坪が道路として削られる(減歩さ…
あてはめ
被上告人は、本件土地が「軍の用地」として使用されることを前提として売買を行っており、これが売買契約の動機となっていた。この動機は、契約書上の「緑地拡張」という文言の背後にある実質的な目的として相手方である上告人に表示されていたと認められる。さらに、軍用地として使用される事情がないことを知っていれば契約を締結しなかったといえるから、主観的にも客観的にも重要性を有する「要素の錯誤」にあたる。
結論
軍用地として使用されることが契約の動機として表示されており、その点に重要な錯誤が認められるため、本件土地売買契約は錯誤により無効(現行法上は取消し可能)である。
実務上の射程
動機の錯誤が法律行為の要素の錯誤となるための「表示」の必要性を説いたリーディングケース。現行民法95条1項2号・2項(動機の錯誤)の明文化の基礎となった判例であり、答案上は動機が明示または黙示に表示され、契約の内容となったことを論証する際に活用する。
事件番号: 昭和63(オ)385 / 裁判年月日: 平成元年9月14日 / 結論: 破棄差戻
協議離婚に伴い夫が自己の不動産全部を妻に譲渡する旨の財産分与契約をし、後日夫に二億円余の譲渡所得税が課されることが判明した場合において、右契約の当時、妻のみに課税されるものと誤解した夫が心配してこれを気遣う発言をし、妻も自己に課税されるものと理解していたなど判示の事実関係の下においては、他に特段の事情がない限り、夫の右…
事件番号: 昭和24(オ)209 / 裁判年月日: 昭和26年4月19日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】法律行為の要素に錯誤があるというためには、意思表示の時点において当該事情が契約の必須の要件とされている必要がある。契約成立後に生じた事情や合意は、特段の事情がない限り、契約締結時における意思表示の要素の錯誤を構成しない。 第1 事案の概要:上告人(売主)は本件家屋の売買契約を締結したが、後に「期限…
事件番号: 昭和37(オ)1458 / 裁判年月日: 昭和38年10月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】意思表示の動機が相手方に表示されていたとしても、それだけで直ちに法律行為の要素(内容)になるわけではなく、諸般の事情に照らして契約の重要な内容となっていたか否かによって判断される。 第1 事案の概要:本件土地売買契約は、買主側から当該土地を大井権現消防署の敷地の候補地としたい旨の話が出されたことを…
事件番号: 昭和34(オ)632 / 裁判年月日: 昭和35年9月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】裁判上の自白の取消しには、自白が真実に反し、かつ錯誤に基づいたものであることの証明を要するが、自白が真実に反することが証明された場合には、特段の事情がない限り、錯誤によるものと推認される。 第1 事案の概要:被上告人(原告)は、本件不動産の所有権に基づき、上告人(被告)らに対して所有権移転登記の抹…