判旨
代物弁済契約において、目的物の価額が債務額を相当程度超過している場合であっても、特段の事情がない限り、直ちに暴利行為として公序良俗に反し無効となるわけではない。
問題の所在(論点)
債務額を大きく上回る価額の不動産を目的物とする代物弁済契約は、民法90条の公序良俗に反し無効となるか。
規範
代物弁済契約が公序良俗(民法90条)に反し暴利行為として無効とされるためには、給付と反対給付の間に著しい不均衡が存在するだけでなく、相手方の窮状に乗じるといった不当な目的や態様等の「特段の事情」が必要である。単に目的物の価格が債務額を上回っているという点のみでは、公序良俗違反とは断定できない。
重要事実
昭和24年7月16日、債務者(上告人)は公正証書に基づき負担していた2つの債務(残額計15万1800円)の代物弁済として本件土地を債権者に提供した。当時、本件土地の価格は60万円であり、債務額の約4倍に相当していた。債務者側は、この価額の差を理由に、当該代物弁済契約は暴利行為であり無効であると主張した。
あてはめ
本件における債務額は約15万円であるのに対し、代物弁済の目的物である土地の価格は60万円であった。確かに土地価格は債務額を約45万円超過しており、一定の価額差は認められる。しかし、この程度の価額差があるという事実のみでは、暴利行為と断定するに足りる「特段の事情」が認められない。したがって、契約締結に至る経緯等に不当な点がない限り、私的自治の範囲内として有効と解される。
結論
本件代物弁済契約は、債務額と目的物の価格に差があっても、公序良俗に反して無効であるとはいえない。
実務上の射程
代物弁済契約の有効性を争う際の重要な指標となる。答案上は、単なる価額の不均衡(客観的要件)だけでなく、相手方の無知・困窮への乗じ(主観的要件)といった「特段の事情」の有無を検討する際の規範として用いる。ただし、現代の実務では、清算義務の有無や帰属清算型の譲渡担保としての構成なども検討の対象となる点に留意が必要である。
事件番号: 昭和38(オ)1111 / 裁判年月日: 昭和39年5月23日 / 結論: 棄却
債務額一三七万円の約四・五倍にあたる六〇九万五千円余の価額を有する土地および建物を目的とする代物弁済契約であつても、相手方の窮迫、軽卒に乗じ不当な利益を獲得する目的でしたものと認められない以上、右代物弁済契約は、民法第九〇条により無効であるとはいえない。
事件番号: 昭和33(オ)992 / 裁判年月日: 昭和35年3月8日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代物弁済の予約に基づく所有権移転が、不動産価格と債務額に大きな差がある場合でも、相手方の窮迫等を利用して過当な利益を図る目的がない限り、直ちに公序良俗に反して無効とはならない。 第1 事案の概要:上告人は被上告人から37万円を借り受け、利息制限法に基づく引き直し後の元本債務は38万1100円であっ…
事件番号: 昭和30(オ)972 / 裁判年月日: 昭和32年7月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】債務額と代物弁済の目的物の価格に開きがある場合でも、債権者が債務者の無知や窮迫に乗じて暴利を貪ったという事情がなく、債務者に弁済の目途があったといえる状況下では、当該代物弁済契約は公序良俗に反しない。 第1 事案の概要:上告人と被上告人は、債務の代物弁済として土地建物を譲渡する契約を締結した。当時…