控訴取下の効力を判断する審理において、口頭弁論終結後、取下の無効を主張する当事者が取下の新たな瑕疵を主張して弁論再開を申請したときは、裁判所は必ず弁論再開を許さなければならないと解することはできない。
控訴取下の効力を判断する審理において取下の新たな瑕疵を主張してなした弁論再開申請に応ずる義務。
民訴法133条,民訴法363条
判旨
控訴の取下げは、代表取締役が自由な意思決定に基づき取下書を作成・提出した以上有効であり、提出手段のいかんや、民法上の無効事由(無知・窮迫等)の主張は、客観的証拠や事実認定に照らしその効力を左右しない。
問題の所在(論点)
控訴の取下げという訴訟行為について、提出手段の態様や、意思決定過程における民法上の無効事由(無知・窮迫等)の主張が、その効力に影響を及ぼすか。
規範
訴訟行為は、手続の明確性と安定性を重視すべき公法上の行為である。したがって、意思表示の瑕疵(無効・取消し)に関する民法上の規定は原則として適用されず、行為者の自由な意思決定に基づき、法定の形式(書面の提出等)を備えてなされた以上、その効力は維持される。また、取下書の提出手段(自ら投函したか否か等)は、本質的な効力要件ではない。
重要事実
控訴人A社の代表取締役Dは、自らの自由な意思決定に基づき、控訴取下書を作成して郵便により裁判所に提出した。当該取下書の副本は相手方代理人に交付され、受領の捺印もなされていた。後に控訴人側は、①取下書の投函が被控訴人の従業員に託された点、②副本の送達方法に不備がある点、③Dの無知・窮迫に乗じてなされた無効なものである点などを主張し、取下げの無効を争った。
あてはめ
事実認定によれば、代表取締役Dは自己の自由な意思に基づき取下書を作成・提出しており、書面による提出という法定の形式を充足している。郵送にあたり自ら投函したか、第三者に託したかは、意思の表出プロセスとして本質的な差異はなく、効力を左右しない。また、副本の送達についても相手方の受領が確認されており、異議も留保されていない。さらに、無知や窮迫に乗じられたとの主張についても、認定された事実関係からはそのような瑕疵は認められず、訴訟手続の安定を害してまで無効とすべき特段の事情は存在しない。
結論
本件控訴の取下げは有効であり、これに反する上告理由はいずれも採用できない。
実務上の射程
訴訟行為の撤回や無効主張を制限する判例法理の一環として位置づけられる。答案上は、民法上の意思表示の瑕疵の理論を安易に訴訟行為に持ち込まず、手続的安定性の観点から「自由な意思に基づく作成」と「形式の具備」があれば有効と解する論理構成に用いる。特段の事情(刑事上罰すべき他人の行為が介入した場合等)がない限り、一度なされた取下げを否定することは困難であることを示す射程を持つ。
事件番号: 昭和30(オ)132 / 裁判年月日: 昭和31年6月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】当事者間に争いがない事実、および第一審判決が維持した事実関係に基づき、請求の対象物が特定されている以上、原判決に理由の食い違い等の違法は存在しない。 第1 事案の概要:被上告人は、D紡績株式会社の新株100株に関する株式申込金領収証の引渡しを求めて提訴した。第一審において、対象が当該領収証である点…