株式譲受人から株式会社に対し株式名義の書換の請求をした場合において、会社の過失により書換が行なわれなかつたときは、会社は、株式名義の書換のないことを理由として、株式の譲渡を否認することができない。
過失により株式譲受人の名義書換請求に応じない株式会社は当該株式の譲渡を否認することができるか。
商法206条
判旨
会社が過失により適法な名義書換請求に応じなかった場合、会社は株主名簿の記載にかかわらず、譲受人を株主として取り扱う必要があり、名簿上の譲渡人を株主として取り扱うことはできない。
問題の所在(論点)
会社側の過失により名義書換が遅滞した結果、株主名簿に未だ譲渡人の氏名が記載されている場合、会社は当該譲渡人を株主として扱うことができるか。会社法上の名義書換の対抗力(現行会社法130条1項)との関係が問題となる。
規範
会社が正当な事由なく株式の名義書換請求を拒絶した場合には、会社はその書換がないことを理由として株式の譲渡を否認することはできない。この理は、会社が過失により名義書換請求に応じなかった場合にも妥当する。したがって、かかる場合には会社は株式譲受人を株主として取り扱うべきであり、株主名簿上に記載されている譲渡人を株主として取り扱うことは許されない。
重要事実
被上告会社(被告)は、基準日時点の株主に対し新株を割り当てる旨を決定した。株主であった上告人(原告)は、基準日前にその保有株式を訴外Dに譲渡し、Dは基準日前に適法に名義書換請求を行っていた。しかし、被上告会社の過失により書換が行われなかったため、基準日当時の株主名簿には依然として上告人が株主として記載されていた。被上告会社はこれに基づき上告人に新株割当通知を行い、上告人は引受けを申し込んだが、後に会社側が上告人の株主権を否定したため争いとなった。
あてはめ
本件では、株式譲受人Dが基準日以前に適法な名義書換請求を行っていた。にもかかわらず書換がなされなかったのは、もっぱら被上告会社の過失に起因するものである。この場合、前掲規範に照らせば、被上告会社はDを株主として取り扱う義務があり、逆に譲渡人である上告人を株主として取り扱うことはできない。したがって、上告人に対する新株割当通知および上告人による引受申込みは、いずれも権利のない者に対してなされたもの、あるいは権利のない者によってなされたものとして、効力を認められない。
結論
上告人を株主として取り扱うことはできず、新株割当の基準日に株主であることを前提とした上告人の請求は認められない。
実務上の射程
名義書換が会社の過失で未了の場合における「名義書換失念株」とは異なる処理の射程を示す。答案上では、会社法130条1項の原則(名簿記載のない譲受人の非対抗)の例外として、会社側が書換を不当に拒絶・懈怠した場合には信義則上、会社側から名義不備を主張できないとする文脈で活用すべき判例である。
事件番号: 昭和28(オ)751 / 裁判年月日: 昭和35年9月15日 / 結論: 棄却
株主総会の決議に基き一定時の株主に新株引受権が付与されたとき、親株について右一定時より以前に譲渡行為がなされていても、その日時までに譲渡人の失念により名義書替手続がなされていなければ、譲渡人は新株引受権を取得するものではない。 株主総会の決議が一定時現在の株主に対し新株引受権を与えている場合の株主とは、右一定時において…
事件番号: 昭和36(オ)392 / 裁判年月日: 昭和38年10月1日 / 結論: 棄却
譲渡人の捺印のみで記名を欠く裏書により記名株式の譲渡をうけた者が、記名を補充せずに会社に対し株主名簿の名義書換請求しても、会社はこれに応ずる義務がないと解すべきである。