一 白紙委任状を添付してする記名株式の譲渡は、商法第二〇五条第一項の譲渡を証する書面の交付によつてなす記名株式の譲渡に該当する。 二 悪意または重大な過失なくして記名株式を取得した者は、これに添付された譲渡を証する書面が偽造である場合にも、なお、商法第二二九条の保護をうけるものと解すべきである。
一 白紙委任状を添付してする記名株式の譲渡と商法第二〇五条第一項の適用 二 譲渡証書が偽造である場合と記名株式の善意取得
商法205条,商法229条
判旨
記名株式の譲渡において譲渡を証する書面(名義書換用白紙委任状)が偽造された場合であっても、株券の善意取得者は保護される。無権利者から譲り受けた第三者が株式を善意取得したときは、真の所有者は株式及び株券の所有権を喪失し、違法に処分した者に対し不法行為に基づく損害賠償を請求できる。
問題の所在(論点)
譲渡を証する書面(白紙委任状)が偽造された記名株式の譲渡について、善意取得が認められるか。また、第三者が善意取得した場合、元の株主は処分者に対し損害賠償を請求できるか。
規範
旧商法下では偽造委任状による譲渡は善意取得の対象外であったが、昭和26年改正商法205条1項(現会社法128条・127条)及び229条(現会社法131条2項)の規定により、譲渡を証する書面(白紙委任状)が偽造された場合であっても、取得者に悪意または重大な過失がない限り、株式の善意取得が認められる。
重要事実
株主である被上告人らは、証券会社Dに対し、処分承諾書等を添付せず株券のみを寄託した。Dはこれに偽造の白紙委任状を添付し、自己の債務の担保として上告人(会社)に質入れした。その後、上告人は債権回収のため、依然として偽造の委任状が添付されたままの当該株券を、第三者Eに譲渡・交付した。被上告人らは、上告人に対し株券の所有権侵害を理由として損害賠償を求めた。
あてはめ
上告人による第三者Eへの譲渡は、改正商法施行後に行われた。Eが株券を取得する際、譲渡を証する書面(委任状)が偽造であることを知らず(善意)、かつ重過失がない場合、Eは改正商法229条の適用により適法に株式を取得する。本件ではEに悪意・重過失があったとの立証がないため、Eは株式を取得し、被上告人らはその所有権を喪失したといえる。上告人は、偽造委任状が付された株券であることを知り、あるいは知り得たにもかかわらず漫然と譲渡した(故意・過失)といえ、被上告人らの所有権を違法に侵害したと評価される。
結論
第三者Eが株式を善意取得したことにより、被上告人らは株式の所有権を喪失した。したがって、上告人は被上告人らに対し、不法行為に基づき株券の価格相当額を賠償する義務を負う。
実務上の射程
記名株式の譲渡における『譲渡を証する書面』の不備(偽造)と善意取得の成否に関するリーディングケースである。会社法131条2項の適用において、委任状の偽造があっても即座に善意取得が否定されるわけではないことを示す。答案上は、無権利者からの処分がなされた際の、元の権利者の権利喪失と損害賠償請求の論理構成として活用できる。
事件番号: 昭和57(オ)496 / 裁判年月日: 昭和59年4月20日 / 結論: 棄却
株券を窃取された受寄者は、株券の所持人がその取得につき悪意又は重過失がある場合には、所持人に対し、民法一九三条の規定に基づき、その返還を請求することができる。
事件番号: 昭和27(オ)237 / 裁判年月日: 昭和29年6月22日 / 結論: 棄却
株金払込領収証に添付された白紙委任状が偽造であるときは、譲受人がたとい善意無過失であつても、改正前の商法第二二九条第一項又は第五一九条の準用がない。