一 証券業者の外務員は、特別の事情の存しないかぎり、顧客から株式の売買取引の委託を受け、顧客との間で受渡のため株券又は金銭を授受し、いわゆる保護預り、名義貸契約に伴い株券の授受をなし、新株払込金を受領するにとき、証券業者を代理する権限がある。 二 外務員と顧客との間に一般取引関係からする信用をこえる特別の個人的信頼関係が存し、顧客が外務員に対し証券業者の使用人たる地位を去つて自己のために行為することを求め、外務員がこれに応じたものと認められるだけの特別事情が存しないかぎり、外務員は、証券業者の代理であると解すべきである。
一 証券業者の外務員の権限 二 外務員を通じて証券業者と顧客との間で株式の売買取引の委託等がなされた場合における当該外務員と証券業者間の代理関係の有無
証券取引法56条1項
判旨
有価証券外務員は、証券業者から個別の代理権授与がなくとも、取引の実情に照らし、株式売買の受託や株券・代金の授受等につき一般に代理権を有する。外務員の代理権濫用については、相手方がその真意を知り又は知り得べきであった場合を除き、民法93条の類推適用によりその行為の効果は本人に帰属する。
問題の所在(論点)
証券会社の外務員が、証券会社の代理人として株券や払込金を受領する権限を有するか、および外務員が自己の利益のために代理権を濫用した場合の効果が本人(証券会社)に帰属するか。
規範
1. 有価証券外務員は、証券取引の実情に照らし、特別の事情のない限り、営業所の内外において株式売買取引の委託、株券・金銭の授受、保護預り、名義書換、新株払込金の受領等の事項につき、証券業者を代理する権限を有する。 2. 外務員が証券業者の代理人か顧客の代理人かは具体的事情によるが、通常は証券業者の代理人と認められる。これが否定されるには、顧客が外務員に対し証券業者の使用人の立場を去って特に自己のために行為することを求め、外務員がこれに応じたという「特別の個人的信頼関係」が存することを要する。 3. 外務員が代理権を濫用した場合、相手方がその真意を知り、又は知り得べきであったときは、民法93条但書の規定を類推適用し、本人は責任を負わない。
重要事実
被上告人は、D証券の営業部長であったEを通じて株式売買を行い、名義貸しによる株券寄託等をしていた。その後、D証券を吸収合併した上告会社(証券会社)の支店営業部長兼外務員となったEに対し、被上告人は名義書換目的で株券を交付し、さらに新株払込金を交付した。Eはこれを着服したが、被上告人とEとの間には一般取引上の信頼を超える個人的信頼関係は認められず、また被上告人がEの権限濫用の真意を知ることもできなかった。
あてはめ
外務員Eは上告会社の使用人であり、被上告人との間に「特別の個人的信頼関係」は認められない。したがって、Eは通常通り上告会社の代理人として振る舞ったものと解される。また、Eは自己の利益を図る目的(代理権濫用)で行為したが、相手方である被上告人はその真意を知らず、かつ知り得ることもできなかった。そのため、民法93条(心裡留保)の法意(類推適用)に基づき、Eの行為の効果を否定することはできない。
結論
外務員Eの受領行為の効果は上告会社に帰属するため、上告会社は責任を免れない(上告棄却)。
実務上の射程
外務員の包括的代理権を認めた重要判例である。答案上は、まず外務員の代理権の範囲を確認し、その上で代理権濫用が問題となる場面で「93条但書類推適用」の判断枠組み(相手方の悪意・有過失)を導くために活用する。現在は民法107条が明文化されたが、判例の趣旨は同条の解釈として維持されている。
事件番号: 昭和39(オ)1131 / 裁判年月日: 昭和40年5月4日 / 結論: 棄却
商品取引所の受託契約準則第三条に定める有効な書面の差し入れなくしてなされた取引であるからといつて、右取引が無効とはならない。