判旨
表見代理の成立要件である代理権授与の表示や、代理権消滅後の表見代理において、相手方が代理人の解雇事実を知っていた場合は悪意として保護されない。また、複数の被告に対する予備的併合がなされた場合、その併合の性質に関する判断に誤りがあっても結論に影響しない限り、判決は維持される。
問題の所在(論点)
1. 代理人が既に解雇された事実を知りながら取引を行った相手方に、表見代理の規定を適用して本人に責任を負わせることができるか。2. 被告を異にする予備的併合がなされた場合の訴訟法上の取り扱いとその判断が判決に与える影響。
規範
民法109条(代理権授与の表示による表見代理)および同法112条(代理権消滅後の表見代理)の適用において、相手方が「善意」であることは必須の要件である。相手方が、代理人と称する者が既に解雇され、代理権を有していない事実を知っていた場合には、表見代理は成立しない。また、訴訟法上の予備的併合において、各請求が排他的関係にあり、かつ審理の結果いずれも棄却されるべき場合には、併合の性質に関する判断の瑕疵は判決の結論を左右しない。
重要事実
上告人は、被上告会社を解雇された被上告人Bとの間で、株式の信用取引を委託する契約を締結した。しかし、上告人はBとの取引時、Bが既に被上告会社から解雇されていた事実を認識していた。上告人はBの個人的手腕を信頼して、他社である証券会社にB名義で株券を預託して取引を行うことを了承し、自らも当該証券会社に指示を出していた。上告人は、被上告会社およびBに対し、第一次請求(主位的)が認められない場合に備えて第二次請求(予備的)を行うという、両立しない請求を併合して訴えを提起した。
あてはめ
実体法上の点について、上告人はBと本件取引を行う際、Bが既に被上告会社を解雇されていた事実を知っていた(悪意)。加えて、Bが他社である証券会社に対し自己の名義で株券を預託して取引することについても了承しており、自ら直接当該会社と連絡を取り合っていた。このような状況下では、上告人がBに代理権があると信じるにつき正当な理由があるとは到底いえず、表見代理の成立は否定される。訴訟法上の点については、原審が予備的併合の性質(単純共同訴訟か否か等)に関する判断において仮に誤りがあったとしても、実体判断の結果としていずれの請求も棄却されるべきものである以上、判決の結論に影響を及ぼす違法とはならない。
結論
取引の相手方が代理権の欠如(解雇事実)を知っていた以上、表見代理は成立せず、被上告会社の責任は否定される。また、予備的併合に関する判断に瑕疵があったとしても、請求棄却という結論は正当であり、上告は棄却される。
実務上の射程
表見代理における相手方の悪意を肯定した事例判断として、信頼の保護が不要な場面を画定する。また、実務上、被告を異にする予備的併合(主観的予備的併合)の許否について議論があるものの、本判決は「結論に影響しない限り、併合の性質に関する判断の誤りは上告理由にならない」という訴訟経済・判決の妥当性の観点から答案上利用できる。
事件番号: 昭和38(オ)562 / 裁判年月日: 昭和38年12月3日 / 結論: 棄却
一 証券業者の外務員は、特別の事情の存しないかぎり、顧客から株式の売買取引の委託を受け、顧客との間で受渡のため株券又は金銭を授受し、いわゆる保護預り、名義貸契約に伴い株券の授受をなし、新株払込金を受領するにとき、証券業者を代理する権限がある。 二 外務員と顧客との間に一般取引関係からする信用をこえる特別の個人的信頼関係…