私文書の作成名義人の印影が当該名義人の印章によつて顕出されたものであるときは、反証のないかぎり、該印影は本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定するのを相当とするから、民訴法第三二六条により、該文書が真正に成立したものと推定すべきである。
民訴法第三二六条の解釈
民訴法326条
判旨
私文書の作成名義人の印影が本人の印章によって顕出されたものであるときは、反証のない限り、本人の意思に基づく押印であると事実上推定される。これにより、民訴法228条4項(旧326条)に基づき、当該文書の真正な成立が推定される。
問題の所在(論点)
民事訴訟法228条4項(旧326条)の適用に関し、名義人の印章による印影が存在する場合、本人の意思に基づく押印であることを要件とする同条の推定(二段目の推定)が働く前提として、どのような推定(一段目の推定)が認められるか。
規範
私文書の作成名義人の印影が当該名義人の印章によって顕出されたものであるときは、反証のない限り、該印影は本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定するのが相当である。この一段目の推定が働く結果、民訴法228条4項(旧326条)により、当該文書が真正に成立したものと推定される(二段の推定)。
重要事実
本件における被上告人は、証拠として提出された乙1号証ないし7号証に示された被上告人名義の印影が、自己の印章によって顕出されたものである事実は認めていた。しかし、原審(大阪高裁)は、特段の反証が示されていないにもかかわらず、これらの印影の真正を否定し、ひいては当該文書全体の真正な成立を否定した。
事件番号: 昭和29(オ)738 / 裁判年月日: 昭和31年9月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】私文書の思想内容ではなく、その存在自体や記載文字・印影の形状を証拠とする場合には、民事訴訟法上の文書の真正な成立を証明する必要はない。 第1 事案の概要:上告人の代理人と称するDが、上告人から預かっていた印章を用いて根抵当権設定契約書や約束手形等(乙各号証)を作成した。原審は、これら私文書の成立の…
あてはめ
本件では、被上告人が文書上の印影が自己の印章によるものであることを認めている。この場合、経験則に照らし、特段の事情がない限り、本人が自ら押印したか、あるいは他人に命じて押印させたものと推認するのが合理的である。それにもかかわらず、原審がなんら反証を挙示することなく印影の真正(本人の意思に基づくこと)を否定したのは、事実上推定の法理を誤解し、民訴法228条4項の解釈を誤ったものといえる。
結論
本人の印章による印影が認められる以上、反証がない限り本人の意思に基づく押印と推定され、文書の真正な成立が推定される。原判決を破棄し、反証の有無を審理させるため本件を差し戻す。
実務上の射程
文書の成立の真正を争う実務において、名義人の印章と一致する印影が認められた場合、挙証責任が事実上転換される。相手方は「印章の盗用」や「預け中の不正使用」といった具体的かつ特段の事情(反証)を立証しない限り、文書の真正を覆すことができない。答案では『一段目の推定(事実上の推定)』と『二段目の推定(法定の推定)』を峻別して記述する際に用いる。
事件番号: 昭和36(オ)238 / 裁判年月日: 昭和39年10月6日 / 結論: 破棄差戻
本人が他人に対し自己の印章を交付し、これを使用してある行為をなすべき権限を与え、その他人がこれを使用し、代理人として、第三者との間で権限外の行為をした場合、当該行為をする際に通常人であれば代理人の権限について疑念をもつような特別の事情があるときは、第三者が、印章を託された代理人にその取引をする代理権があると信じたとして…
事件番号: 昭和40(オ)789 / 裁判年月日: 昭和40年10月29日 / 結論: 棄却
私文書の作成名義人の印影がその名義人の印章によつて顕出されたものであるときは、反証のないかぎり、その印影は本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定するのを相当とする(昭和三九年(オ)一一一〇号、同四〇年七月二日二小判裁判集民事七九巻六三九頁・同三九年(オ)七一号、同三九年五月一二日三小判民集一八巻四号五九七頁各参…