私文書の作成名義人の印影がその名義人の印章によつて顕出されたものであるときは、反証のないかぎり、その印影は本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定するのを相当とする(昭和三九年(オ)一一一〇号、同四〇年七月二日二小判裁判集民事七九巻六三九頁・同三九年(オ)七一号、同三九年五月一二日三小判民集一八巻四号五九七頁各参照)。
私文書の作成名義人の印影がその印章によつて顕出されたときと真正の推定
民訴法326条
判旨
私文書の作成名義人の印影が本人の印章によって顕出されたものであるときは、反証のない限り、その印影は本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定され、民事訴訟法228条4項により文書全体が真正に成立したものと推定される。
問題の所在(論点)
民事訴訟法228条4項(旧326条)の推定が働くためには、名義人の意思に基づく押印(押印の真正)が必要であるが、印影が本人の印章と一致する場合に、いかなる推定が働くか。
規範
私文書の成立の真正については、本人又は代理人の署名又は押印があるときは真正に成立したものと推定される(民事訴訟法228条4項)。この点、名義人の印章による印影が文書に存在する場合、特段の事情がない限り、その印影は名義人の意思に基づいて押印されたものと事実上推定される(一段目の推定)。その結果、同項の適用により、当該文書全体が名義人の意思に基づいて作成されたものと法定推定される(二段目の推定)。
重要事実
本件において、上告人名義の私文書(乙第2号証ないし第5号証)が存在し、その文書上の印影が上告人の印章によって顕出されたものであることについては、当事者間に争いがないか、または上告人本人の尋問結果によって確定された。上告人は、これらの文書の成立を否定すべく、本人及び証人Dの供述を証拠として提出したが、原審はこれらを信用しがたいものとして排斥した。その他に、上記推定を覆すに足りる証拠は存在しなかった。
事件番号: 昭和36(オ)474 / 裁判年月日: 昭和38年8月8日 / 結論: 棄却
不動産登記法第二条第一号の仮登記をなすべき場合に同法第二条第二号の仮登記がなされたときでも、右仮登記は順位保全の効力を有する。
あてはめ
本件では、各文書における上告人の印影が真正(本人の印章と一致)であることが確定している。この場合、判例の法理によれば、反証のない限り、当該印影は上告人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定される。上告人はこの推定を覆すための反証として証人等の供述を提出したが、これらは信用性に欠けると判断されており、他に推定を覆すに足りる事情は認められない。したがって、印影の真正から押印の真正が推定され、さらに同項により文書全体の真正な成立が認められる。
結論
印影が名義人の印章によって顕出されたものである以上、反証がない限り文書の真正な成立が推定されるため、本件文書の成立を認めた原判決に違法はなく、上告を棄却する。
実務上の射程
いわゆる「二段の推定」のうち、一段目の事実上推定を確認した重要判例である。答案上は、まず民訴法228条4項を提示し、印影の真正(一致)という前提事実から、本人の意思に基づく押印という要件が事実上推定されることを論証する際に必須となる。反証側(作成名義人)としては、印章の盗用や預け渡しなどの具体的事実を主張・立証して、一段目の推定を破る必要がある点に留意する。
事件番号: 昭和40(オ)583 / 裁判年月日: 昭和42年10月27日 / 結論: 棄却
無権代理人の偽造文書による申請に基づいて登記がされた場合においても、本人が右登記の原因たる法律行為を追認したことによりその登記の記載が実体的法律関係に符合するにいたつたときには、本人は、右登記の無効を主張してその抹消登記手続を請求することはできない。
事件番号: 昭和39(オ)321 / 裁判年月日: 昭和40年2月19日 / 結論: 棄却
昭和三三年一二月一六日の抵当権設定契約を原因とする登記の記載が昭和三三年一〇月一五日付抵当権設定契約に因るものとされていても、右の程度の相違は登記の無効をきたさない。
事件番号: 昭和39(オ)1107 / 裁判年月日: 昭和42年2月23日 / 結論: 棄却
昭和三九年(オ)第七七号同四一年一一月一八日第二小法廷判決(民集二〇巻九号一八二七頁掲載)と同旨。
事件番号: 昭和39(オ)1176 / 裁判年月日: 昭和40年7月8日 / 結論: 破棄差戻
私文書の作成名義人の印影が当該名義人の印章によつて顕出されたものであるときは、反証のないかぎり、該印影は本人の意思に基づいて顕出されたものと事実上推定するのを相当とするから、民訴法第三二六条により、該文書が真正に成立したものと推定すべきである。