養子縁組の成立に関し原審の確定したような諸般の事情があるときは、甲(養子たるべき者の代諾権者)が乙、丙(養親となるべき者)と養子縁組をする際、同養子縁組の成否について養母たるべき丙の意思を直接に確認しなかつたとしても、これをもつて甲に重大な過失があつたものとはいえない。
法律行為の要素に錯誤があつた場合と右錯誤についての重大な過失の有無。
民法95条
判旨
動機の錯誤(要素の錯誤)における重過失の有無の判断にあたり、養子縁組の成否を養母となるべき者の意思を直接確認せずに贈与契約を締結したとしても、諸般の事情に照らせば直ちに重大な過失があるとはいえない。
問題の所在(論点)
動機の錯誤に基づく意思表示の無効(改正前民法95条)を主張する際、法律行為の前提となる重要な事実(養子縁組の成否)について、関係者の意思を直接確認しなかったことが「重大な過失」に該当するか。
規範
民法95条(改正前)の「重大な過失」とは、表意者に通常期待される著しい注意欠如を指す。動機の錯誤が法律行為の要素の錯誤となる場合において、表意者が相手方や関係者の意思を直接確認しなかったとしても、当時の諸般の事情を総合考慮し、その確認を怠ったことが著しく不注意であるとまでいえない限り、重過失は否定される。
重要事実
被上告人(表意者)は、訴外Dとの間で養子縁組が成立することを前提として、本件贈与契約を締結した。しかし、実際には養子縁組は成立しなかった。この契約締結に際し、被上告人は養母となるべきD本人に対し、養子縁組を承諾する意思があるかどうかを直接対面して確認する措置を講じていなかった。
事件番号: 昭和35(オ)48 / 裁判年月日: 昭和36年4月25日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】代理権限の有無は客観的な委任関係に基づき判断されるべきであり、本人が代理権を与えた旨の表示がない場合や、基本代理権が存在しない場合には、表見代理の成立を認める余地はない。 第1 事案の概要:上告人(原告)は、Dが被上告人(被告)Bを代理して本件山林に関する行為を行ったと主張した。具体的には、Dが山…
あてはめ
本件における養子縁組の成立に関する諸般の事情(判決文からは具体的な細部は不明であるが、原審が確定した事実関係)に照らせば、被上告人が養母たるDの意思を直接確認しなかったという一点をもって、直ちに表意者に著しい注意欠如があったと断定することはできない。当時の状況下では、直接確認せずとも縁組が成立すると信じるに足りる客観的な状況が存在したと解されるため、被上告人の行為は重過失には当たらないと評価される。
結論
被上告人に重大な過失があったとはいえないため、錯誤による無効主張は妨げられない。上告棄却。
実務上の射程
動機の錯誤における重過失の判断枠組みを示す。表意者が調査・確認義務を完全に尽くしていなくとも、周囲の状況から誤信がやむを得ないといえる場合には、重過失を否定して表意者を保護する余地を認めている。司法試験においては、95条3項の重過失の評価において、具体的な確認手段の有無だけでなく「当時の諸状況」を多角的に評価する際の論拠として活用できる。
事件番号: 昭和39(オ)1068 / 裁判年月日: 昭和40年10月8日 / 結論: 棄却
およそ山林売買取引における仲介人は、それが売主の依頼に基づくものであるかぎり、売主の代理人と認められる慣習があると主張するが、右慣習のあることを認めるべき資料は存しない。
事件番号: 昭和37(オ)1458 / 裁判年月日: 昭和38年10月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】意思表示の動機が相手方に表示されていたとしても、それだけで直ちに法律行為の要素(内容)になるわけではなく、諸般の事情に照らして契約の重要な内容となっていたか否かによって判断される。 第1 事案の概要:本件土地売買契約は、買主側から当該土地を大井権現消防署の敷地の候補地としたい旨の話が出されたことを…
事件番号: 昭和28(オ)362 / 裁判年月日: 昭和31年5月22日 / 結論: 破棄差戻
父に代り世帯主として家政一切を処理している長男が、父に無断でその所有の山林を売却した場合において、右長男がその以前にも同一相手方に対し父所有の山林を売却しその履行が無事完了されているような事実があるときは、右相手方が売主家出入りの者であつて右売買の事実につき直接父に確めなかつたとしても、相手方に必ずしも右長男に山林売買…