およそ山林売買取引における仲介人は、それが売主の依頼に基づくものであるかぎり、売主の代理人と認められる慣習があると主張するが、右慣習のあることを認めるべき資料は存しない。
山林売買の仲介人を代理人と認める慣習の有無
民法92条
判旨
不動産取引の買主は、原則として登記簿を調査して所有関係を確認すべき義務を負い、これを怠った場合は無過失とは認められない。
問題の所在(論点)
不動産の山林売買において、買主が登記簿を調査して所有関係を確認しなかった場合に、民法上の「無過失」や「正当な理由」が認められるか。
規範
民法110条等の表見代理の成否や善意取得(不動産にはないが動産等の議論に準じる)において、相手方の「正当な理由」や「無過失」を判断する際、不動産取引においては特段の事情がない限り、登記簿の調査・確認を怠った者に過失がないと認めることはできない。
重要事実
売主Eの仲介人Fが、売却の依頼を受けていない本件山林(一一八)を含めて買主Dに売却した。Dは「山林売買は現地指示で行うのが慣習であり、登記簿を確認しなくても過失はない」と主張し、表見代理の成立や有効な権利取得を争った。原審は、Fには本件山林の売却代理権も仲介依頼もなく、Dが登記簿を調査しなかったことに過失があると認定した。
事件番号: 昭和39(オ)1130 / 裁判年月日: 昭和40年6月25日 / 結論: 棄却
養子縁組の成立に関し原審の確定したような諸般の事情があるときは、甲(養子たるべき者の代諾権者)が乙、丙(養親となるべき者)と養子縁組をする際、同養子縁組の成否について養母たるべき丙の意思を直接に確認しなかつたとしても、これをもつて甲に重大な過失があつたものとはいえない。
あてはめ
山林売買において現地指示による取引が一般的であるとの主張があっても、不動産という重要な財産の取引である以上、登記簿等の公簿による権利関係の調査は不可欠である。本件において、買主Dは登記簿を調査して当該山林の所有関係を確認する手続を怠っており、このような調査義務の懈怠がある以上、過失がないとはいえない。また、仲介人に当然に代理権があるという慣習も認められない。
結論
不動産取引において登記簿を調査しなかった買主に過失がないとすることはできず、表見代理等の主張は認められない。
実務上の射程
不動産取引における「過失」の判断基準を示す射程の長い判例。登記の調査を怠った場合に「無過失」が認められる余地は極めて限定的(他者が登記識別情報を所持し外観を整えている等の特段の事情が必要)であることを示す際に用いる。
事件番号: 昭和41(オ)364 / 裁判年月日: 昭和46年3月30日 / 結論: 破棄差戻
一定範囲の山林の時効取得を認めるにあたり、甲地所有者が係争地に杉苗を植えその育成に努めて来たと認定し、他方、その後乙地所有者が係争地の植え残された一部に杉苗を植え、刈払をし、係争地内から桑葉を採取したと認定しながら、特段の理由を示さず、甲地所有者が係争地の占有を継続したと判断したときは、理由不備の違法がある。
事件番号: 昭和35(オ)900 / 裁判年月日: 昭和37年8月3日 / 結論: 棄却
山林を買受け、未登記のままこれに檜等を植栽した者が、その後特に地上立木を除外することなくいわゆる二重売買を受け、所有権移転登記を経た者に対し、その植栽した立木の所有権を主張するためにはこれを公示する対抗要件を必要とする。
事件番号: 昭和30(オ)499 / 裁判年月日: 昭和34年8月7日 / 結論: 破棄差戻
土地の所有権を移転するにあたり、当事者間の合意によつて地上立木の所有権を留保したときは、該留保を公示するに足る方法を講じない以上、これをもつてその地盤である土地の権利を取得した第三者に対抗しえないものと解すべきである。