甲が乙からその所有株式を担保権設定のため借用したことを認定しながら、他に特段の事情を判示することなく、右担保権設定について乙が甲に代理権を授与した事実が認められず、その他甲が乙のためなんらかの代理権を有していたことが認められないと判示した上、結局基本代理権たる代理権の存在が認められない以上表見代理の法理適用の余地がないと判示したのは、審理不尽理由不備の違法があるものというべきである。
表見代理の基本代理権の存否について審理不尽理由不備の違法があるとされた事例。
民法110条,民訴法395条1項6号
判旨
担保権設定のために株式を貸与した事実は、特段の事情がない限り、貸与者が借用者に対し、当該株式につき自己の名において担保権を設定する代理権を付与したと推認される。したがって、民法110条の表見代理の成否を判断するにあたり、基本代理権の存在を否定した原審の判断には審理不尽の違法がある。
問題の所在(論点)
民法110条の表見代理の成立要件である「基本代理権」の存否について、担保設定のために株式を貸与した事実から代理権の授与を推認できるか。
規範
本人が、第三者(借用者)の債務の担保に供することを承諾して、自己が所有する動産や有価証券を貸与した場合、本人は第三者に対し、本人の名において当該物件に担保権を設定する代理権を付与したと解するのが相当である。ただし、他人の処分権取得(譲渡)が認められる場合や、代理権付与を否定すべき特段の事情がある場合はこの限りではない。
重要事実
被上告人(本人)は、訴外Dが銀行との取引に際して担保を設定するため、自己の所有するF社の株式合計7,000株をDに二回にわたり貸与した。その後、上告人とDとの間で何らかの取引が行われ、上告人は民法110条の権限外の表見代理の成立を主張した。原審は、Dが担保設定のために株式を借用した事実を認めつつも、Dに代理権が授与された事実は認められないとして、基本代理権の欠如を理由に表見代理の成立を否定した。
あてはめ
被上告人がDに対し、銀行債務の担保に供することを承諾して株式を貸与したという事実は、被上告人の名において担保権を設定することの承諾を与えたことを意味する。Dが株式の処分権(譲渡等)を自ら取得したといった事実が認められない本件においては、株式を貸与したという行為そのものが、他に特段の事情がない限り、担保設定のための代理権を付与したことを強く推認させる。したがって、原審が具体的な特段の事情を判示することなく代理権の存在を否定したのは、論理的に矛盾し、審理不尽である。
結論
担保設定のための株式貸与は、特段の事情がない限り基本代理権(担保設定の代理権)の授与にあたる。基本代理権を否定した原判決を破棄し、更なる審理のため差し戻す。
実務上の射程
民法110条の基本代理権の存否が争点となる事案において、「担保のための物件貸与」があれば、原則として代理権の授与があったと構成できることを示す。答案では、単なる事実行為(預託)ではなく、特定の目的(担保提供)を伴う貸与であることを指摘し、代理権授与の推認を導く際の根拠として活用する。
事件番号: 昭和36(オ)238 / 裁判年月日: 昭和39年10月6日 / 結論: 破棄差戻
本人が他人に対し自己の印章を交付し、これを使用してある行為をなすべき権限を与え、その他人がこれを使用し、代理人として、第三者との間で権限外の行為をした場合、当該行為をする際に通常人であれば代理人の権限について疑念をもつような特別の事情があるときは、第三者が、印章を託された代理人にその取引をする代理権があると信じたとして…
事件番号: 昭和39(オ)76 / 裁判年月日: 昭和41年6月28日 / 結論: 棄却
一 復代理人を選任しえない場合に、原審が復代理人が適法に選任されたと判断したことは違法であるが、原判示事実関係(原判決理由参照)に照らせば、代理人が復代理人としてではなく自己の代理人を選任したものと解する余地があり、右代理人の代理人について代理人のため、また、代理人について本人のため、順次民法第一一〇条の表見代理が成立…
事件番号: 昭和29(オ)738 / 裁判年月日: 昭和31年9月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】私文書の思想内容ではなく、その存在自体や記載文字・印影の形状を証拠とする場合には、民事訴訟法上の文書の真正な成立を証明する必要はない。 第1 事案の概要:上告人の代理人と称するDが、上告人から預かっていた印章を用いて根抵当権設定契約書や約束手形等(乙各号証)を作成した。原審は、これら私文書の成立の…