弁護士が、所属弁護士会に届出でた法律事務所を職務上の本拠とせず、同弁護士会の区域外の自宅で主として執務し、かつ職業上使用する封筒、名刺に届出事務所以外の場所を記載使用したことは、職務上の本拠を不明瞭ならしめ、弁護士法第二〇条の趣旨に反し、ひいては弁護士たる品位を失うべき非行にあたる。
弁護士法第二〇条の趣旨に反し弁護士の品位を失うべき非行と認められた事例。
弁護士法20条,弁護士法56条
判旨
弁護士が届出た事務所を職務上の本拠とせず、他所に事務所を表示する行為や、依頼者への報告・預り金の返還を不当に遅延させる行為は、弁護士法20条の趣旨に反し、同法56条1項の「弁護士たる品位を失うべき非行」に該当する。
問題の所在(論点)
1. 届出事務所と異なる場所を事務所として表示・使用する行為が弁護士法20条の趣旨に反し、懲戒事由たる「非行」にあたるか。 2. 依頼者に対する事務連絡の懈怠および預り金の返還拒絶が「非行」にあたるか。
規範
弁護士法20条が事務所を一箇所に限定した趣旨に照らし、職務上の本拠たる事務所を不明瞭ならしめる行為は同条に反する。また、依頼者との信頼関係を損なう不適切な事務処理や金銭の流用名目による返還拒絶は、弁護士法56条1項の「弁護士たる品位を失うべき非行」に該当し、懲戒事由となる。
重要事実
弁護士である上告人は、所属弁護士会に届け出た事務所を職務上の本拠とせず、区域外の自宅で執務し、さらに別住所を記載したゴム印や名刺を職務上使用していた。また、依頼者から訴訟着手金や仮差押費用を受領した際、仮差押が執行不能となり費用の返還を求められたにもかかわらず、長期間連絡を絶ち、依頼者の同意のない他事件の予納金への流用を名目に返還を拒んだ。
事件番号: 昭和33(オ)1016 / 裁判年月日: 昭和34年4月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】弁護士法56条1項にいう「品位を失うべき非行」とは、弁護士会の秩序及び信用を害する行為を包含し、情状が重い場合には除名処分とすることも相当である。 第1 事案の概要:上告人(弁護士)は、複数の事実(イ、ロ、ハ)に基づき懲戒請求を受けた。具体的には、依頼者(D)との間での報酬金返還等を巡るトラブルや…
あてはめ
1. 上告人は届出事務所で執務せず、他所の住所を表示した封筒や名刺を使用しており、これは職務上の本拠を不明瞭にするものである。単なる自宅執務を超えて、事務所が複数あるかのような誤認を生じさせる行為は、事務所一箇所の原則(弁護士法20条)に抵触し、品位を失うべき非行といえる。 2. 仮差押不能後に返還すべき費用について、連絡を絶った上で、同意のない破産申立予納金への流用を口実に返還を拒んだ行為は、依頼者の不信を招く不誠実な対応であり、弁護士としての品位を損なう非行に該当する。
結論
上告人の行為はいずれも弁護士法上の非行に該当し、上告を棄却した原判決の判断は正当である。
実務上の射程
弁護士法20条(事務所設置)および56条(懲戒)に関する重要判例である。特に「事務所一箇所の原則」の実質的意義が、職務上の本拠を明確にすることにある点を示しており、事務所の表示態様が品位保持義務違反(非行)に直結することを論じる際の根拠となる。
事件番号: 昭和38(オ)593 / 裁判年月日: 昭和38年12月26日 / 結論: 棄却
共有者の一人から共有物分割事件の依頼を受けている弁護士が他の共有者から同一事件につき委任を受けた場合には、弁護士法第二五条に違反する。
事件番号: 昭和33(オ)578 / 裁判年月日: 昭和34年5月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】弁護士会の退会命令に対する異議申立を棄却した日本弁護士連合会の決定は、原審認定の事情に照らし適法であり、決定後の会費納入の事実はその適否の判断に影響しない。 第1 事案の概要:東京弁護士会に所属する弁護士である上告人が、同会から退会命令を受けた。上告人はこの命令に対し、被上告人である日本弁護士連合…
事件番号: 昭和33(オ)831 / 裁判年月日: 昭和34年12月4日 / 結論: 棄却
弁護士会または日本弁護士連合会が弁護士を懲戒した後に、懲戒請求者と被請求弁護士との間に示談が成立したとしても、かかる事実は、懲戒処分の当否とは関係がなく、懲戒処分の当否を争う訴訟の裁判に際し斟酌すべき事実ではない。