外国法人から賃借建物の明渡しに関する交渉を依頼された弁護士が,(1)依頼者に対し,既に相手方から受領していた解決金の一部について,いまだ受領していないなどと虚偽の報告をしたこと,及び(2)独断で相手方と再交渉し,追加立退料を受領しながら,依頼者に報告しないで秘匿したことを懲戒事由として,所属弁護士会から業務停止3月の懲戒処分を受けた場合において,上記虚偽報告が外国送金に関する規制を免れるための措置であり,また,上記追加立退料相当額は,支払を受けた後に返還を申し出たが相手方から求められてこれを保管していたものであったとしても,同弁護士はこれらの事情を依頼者に報告していないなど判示の事実関係の下では,同弁護士の行為が弁護士法56条1項所定の「品位を失うべき非行」に当たるとし,業務停止3月の懲戒処分を相当とする旨の判断が社会通念上著しく妥当を欠くものとはいえず,上記懲戒処分が裁量権の逸脱又は濫用に当たるということはできない。
外国法人から賃借建物の明渡しに関する交渉を依頼された弁護士が相手方から受領した解決金について依頼者に虚偽の報告をしたことなどを懲戒事由としてされた同弁護士に対する所属弁護士会による業務停止3月の懲戒処分が裁量権の逸脱又は濫用に当たらないとされた事例
弁護士法56条1項,弁護士法57条1項
判旨
弁護士会による懲戒処分は、弁護士会の自主性・自律性に委ねられた合理的な裁量に属し、全く事実の基礎を欠くか、又は社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権の範囲を超え又は濫用してされたと認められる場合に限り違法となる。また、弁護士の報告義務は依頼者の自己決定を保障するための重要な義務であり、金員受領に関する虚偽報告や秘匿は「品位を失うべき非行」に該当し得る。
問題の所在(論点)
弁護士が依頼者に対し、金員の受領に関して虚偽の報告を行い、又はこれを秘匿した行為が、弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」に該当し、これに対する業務停止3月の懲戒処分が裁量権の逸脱・濫用にあたるか。
規範
1. 弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」への該当性、及び懲戒処分の選択は、弁護士会の合理的な裁量に委ねられる。裁判所による審査は、裁量権の逸脱・濫用(事実の基礎の欠如、又は社会通念上の著しい妥当性の欠如)がある場合に限られる。 2. 弁護士は、委任契約上の義務(民法645条、646条)及び弁護士倫理に基づき、事件の経過や受領した金品について依頼者に誠実かつ正確に報告する義務を負う。これは依頼者の適切な自己決定の機会を保障するための重要な判断材料を提供する趣旨であるため、特に金品の清算・受領に関する報告は厳格になされなければならない。
事件番号: 昭和49(行ツ)52 / 裁判年月日: 昭和49年11月8日 / 結論: 棄却
弁護士懲戒請求者の異議申出を棄却した日本弁護士連合会の裁決に対し、右請求者が提起した取消訴訟は、不適法である。
重要事実
弁護士である被上告人は、建物の明渡交渉に関し、(1)第2回解決金300万円を受領していたにもかかわらず、外為法の規制回避という独自の意図から、依頼者に対し、未受領である旨や受領日を偽る虚偽の報告を繰り返し行った。(2)独断で再交渉を行い追加立退料300万円を受領したが、これを依頼者に一切報告せず、後に相手方に返還するまで秘匿していた。(3)被上告人はこれらの意図について依頼者に説明していなかった。
あてはめ
1. 被上告人は第2回分割金について、外為法上の事情があるとはいえ、依頼者にその意図を説明せず事実に反する報告を繰り返しており、真実を報告できないやむを得ない事情も認められない。これは報告義務の趣旨に反する。 2. 追加金300万円についても、依頼の趣旨に反しない要求であったとしても、その受領や返還、預かりの事実を依頼者に一切報告しなかったことは、弁護士倫理規定(当時)の報告義務・金品清算義務に違反する。 3. これらの行為は依頼者に不審感を抱かせるに足りるものであり、被上告人の主観的意図を考慮してもなお「品位を失うべき非行」に当たるとした弁護士会の判断が社会通念上著しく妥当を欠くとはいえない。
結論
本件懲戒処分に裁量権の逸脱・濫用はなく適法である。したがって、本件裁決の取消しを求める被上告人の請求は棄却されるべきである。
実務上の射程
綱紀委員会における弁明の機会の欠如等の手続的瑕疵についても、綱紀委員会は懲戒委員会への審査請求を判断する調査機関に過ぎず、後の懲戒手続で弁明の機会が保障されている以上、処分の違法事由にはならないとした。
事件番号: 昭和48(行ツ)59 / 裁判年月日: 昭和51年3月4日 / 結論: 棄却
一、弁護士法五八条により弁護士の懲戒を請求した者は、同法六一条により日本弁護士連合会に対してした異議申出を棄却されても、右異議申出棄却裁決につき取消訴訟を提起することを許されない。 二、(省略)
事件番号: 令和3(行ヒ)164 / 裁判年月日: 令和4年6月14日 / 結論: 破棄差戻
地方公共団体の職員が、上司及び部下に対する暴行等を理由とする停職2月の懲戒処分の停職期間中に、上記暴行等の一部についての事情を知っていた同僚及び上記暴行の被害者の1人である部下に対して行った各働き掛けを理由とする停職6月の懲戒処分を受けた場合において、次の(1)、(2)など判示の事情の下においては、上記処分が裁量権の範…
事件番号: 昭和61(行ツ)62 / 裁判年月日: 平成元年9月28日 / 結論: 破棄自判
県職員組合が人事院勧告の完全実施等を要求して行つた始業時より約一時間の一斉職務放棄等の争議行為に参加した同組合支部の副支部長である職員に対する減給一〇分の一を一か月、同支部分会長である職員に対する戒告の各懲戒処分は、右各職員が争議行為の際に行われたピケッティングには加わらなかつたとしても、右争議行為の実施に至る過程で果…