一、弁護士法五八条により弁護士の懲戒を請求した者は、同法六一条により日本弁護士連合会に対してした異議申出を棄却されても、右異議申出棄却裁決につき取消訴訟を提起することを許されない。 二、(省略)
一、弁護士懲戒請求者の異議申出を棄却した日本弁護士連合会の裁決につき右請求者が取消訴訟を提起することの許否 二、弁護士法六二条が憲法一四条に違反するとの主張が排斥された事例
弁護士法58条,弁護士法61条,弁護士法62条,行政事件訴訟法9条,憲法14条
判旨
弁護士の懲戒請求に対する異議申出棄却裁決について、懲戒請求者による取消訴訟の提起は認められない。懲戒請求権等は個人的利益の保護ではなく公益的見地から認められたものであり、原告適格を欠くためである。
問題の所在(論点)
弁護士の懲戒請求者が、日本弁護士連合会による異議申出棄却裁決の取消しを求めて出訴する法律上の利益(原告適格)を有するか。また、弁護士法62条が被懲戒弁護士にのみ出訴を認めていることが、憲法14条や32条に違反しないか。
規範
行政事件訴訟法9条1項の「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され、又は必然的に侵害されるおそれのある者をいう。当該権利・利益が、個人的利益の保護を目的とするものではなく、公益的見地から特に認められたものに過ぎない場合には、原告適格は認められない。また、不服申立てに対する裁決の出訴権の有無は、侵害される利益の性質に鑑みた立法上の裁量に属する。
重要事実
上告人は、弁護士法58条に基づき弁護士の懲戒を請求したが、これが認められなかった。さらに同法61条に基づき日本弁護士連合会に対して異議申出を行ったが、これも棄却された。上告人は、当該異議申出棄却裁決の取消しを求めて裁判所に出訴したが、原審は本件訴えを不適法として却下した。これに対し上告人は、憲法32条(裁判を受ける権利)及び14条(平等原則)違反を理由として上告した。
事件番号: 昭和49(行ツ)52 / 裁判年月日: 昭和49年11月8日 / 結論: 棄却
弁護士懲戒請求者の異議申出を棄却した日本弁護士連合会の裁決に対し、右請求者が提起した取消訴訟は、不適法である。
あてはめ
弁護士法上の懲戒請求権及び異議申出権は、懲戒請求者の個人的利益を保護するためのものではなく、弁護士懲戒制度の運用の適正を図るという「公益的見地」から認められたものに過ぎない。したがって、懲戒請求が認められなくても直接に自己の個人的利益を侵害されるわけではない。これに対し、懲戒を受けた弁護士は弁護士資格の喪失等、身分上の重大な影響を「直接」受ける。このような顕著な差異がある以上、懲戒請求者に出訴を認めないことは、立法上の合理的な裁量の範囲内であり、平等原則や裁判を受ける権利に反しない。
結論
弁護士の懲戒請求者が異議申出棄却裁決の取消しを求めて出訴することは許されず、本件訴えは不適法である。
実務上の射程
行政事件訴訟における「法律上の利益(原告適格)」の有無を判断する際、当該規定が公益のみを目的とするのか、個別の利益をも保護するのかを区別する典型例として用いる。特に、懲戒請求のような「国民の協力」の性質を持つ権利については、原告適格を否定する方向で機能する。
事件番号: 平成15(行ヒ)68 / 裁判年月日: 平成18年9月14日 / 結論: 破棄自判
外国法人から賃借建物の明渡しに関する交渉を依頼された弁護士が,(1)依頼者に対し,既に相手方から受領していた解決金の一部について,いまだ受領していないなどと虚偽の報告をしたこと,及び(2)独断で相手方と再交渉し,追加立退料を受領しながら,依頼者に報告しないで秘匿したことを懲戒事由として,所属弁護士会から業務停止3月の懲…
事件番号: 昭和37(オ)1455 / 裁判年月日: 昭和38年10月18日 / 結論: 棄却
弁護士懲戒請求に対し弁護士会が懲戒しないことについての異議申立をB連合会が棄却した場合に、右懲戒請求者の再審請求に対し右連合会が再審をしないことについての不服の訴は許されない。
事件番号: 昭和33(オ)831 / 裁判年月日: 昭和34年12月4日 / 結論: 棄却
弁護士会または日本弁護士連合会が弁護士を懲戒した後に、懲戒請求者と被請求弁護士との間に示談が成立したとしても、かかる事実は、懲戒処分の当否とは関係がなく、懲戒処分の当否を争う訴訟の裁判に際し斟酌すべき事実ではない。