弁護士会または日本弁護士連合会が弁護士を懲戒した後に、懲戒請求者と被請求弁護士との間に示談が成立したとしても、かかる事実は、懲戒処分の当否とは関係がなく、懲戒処分の当否を争う訴訟の裁判に際し斟酌すべき事実ではない。
弁護士懲戒後の事実と懲戒処分の当否。
弁護士法56条,弁護士法60条,弁護士法62条
判旨
弁護士法に基づく懲戒処分の取消訴訟において、裁判所は処分の時点における当否を判断すべきであり、処分後に成立した示談や会費の納入等の事情は、処分の当否を左右するものではない。また、退会命令は弁護士としての再登録の途を閉ざすものではないため、憲法22条1項の職業選択の自由を侵害しない。
問題の所在(論点)
弁護士の懲戒処分(退会命令)の適法性判断において、処分後に発生した示談成立等の事情を考慮すべきか。また、退会命令が憲法22条1項(職業選択の自由)に抵触するか。
規範
1. 弁護士法62条に基づく懲戒処分取消訴訟において、裁判所が審理の対象とするのは、弁護士会又は日本弁護士連合会が行った懲戒処分の時点における当否である。したがって、処分後の事情(示談の成立等)は処分の当否を判断する際に斟酌すべき事実にはあたらない。 2. 弁護士法に基づく退会命令は、その後に再び入会して弁護士業務を行う可能性を否定するものではないため、憲法22条の保障する職業選択の自由を奪うものとはいえない。
重要事実
上告人(弁護士)は、その行為が弁護士の信用を著しく害し、品位を失うべきものとして、所属弁護士会から退会命令の懲戒処分を受けた。上告人は、当該処分がなされた後に懲戒請求者との間で示談を成立させ、滞納していた弁護士会費を納入した。これらの事後的事実を処分の当否判定に斟酌すべきであると主張し、また、退会命令は憲法22条1項に反するとして、処分の取り消しを求めて上告した。
事件番号: 昭和33(オ)578 / 裁判年月日: 昭和34年5月22日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】弁護士会の退会命令に対する異議申立を棄却した日本弁護士連合会の決定は、原審認定の事情に照らし適法であり、決定後の会費納入の事実はその適否の判断に影響しない。 第1 事案の概要:東京弁護士会に所属する弁護士である上告人が、同会から退会命令を受けた。上告人はこの命令に対し、被上告人である日本弁護士連合…
あてはめ
弁護士の懲戒権限は所属弁護士会等に属しており、取消訴訟において裁判所が審査するのは、あくまで処分時における判断の当否である。本件において、上告人が主張する示談の成立や会費の納入は、いずれも懲戒処分が下された後の事実であり、処分当時の判断を左右するものではない。また、上告人の行為は弁護士の信用と品位を著しく害するものであり、退会命令という処分は過酷とはいえない。憲法違反の主張についても、退会命令を受けた者が将来的に再入会し、業務を再開する余地が残されている以上、職業選択の自由の不当な侵害にはあたらないといえる。
結論
懲戒処分後の事情は処分の適法性判断に影響せず、本件退会命令は妥当である。また、退会命令は憲法22条に違反しない。
実務上の射程
行政処分の取消訴訟における「処分時」の基準を、弁護士懲戒という自律的処分の文脈で確認したもの。特に退会命令が職業選択の自由を直ちに侵害しないとする論理は、専門職の資格制限の合理性を論ずる際の基礎となる。
事件番号: 昭和33(オ)1016 / 裁判年月日: 昭和34年4月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】弁護士法56条1項にいう「品位を失うべき非行」とは、弁護士会の秩序及び信用を害する行為を包含し、情状が重い場合には除名処分とすることも相当である。 第1 事案の概要:上告人(弁護士)は、複数の事実(イ、ロ、ハ)に基づき懲戒請求を受けた。具体的には、依頼者(D)との間での報酬金返還等を巡るトラブルや…