土地の賃貸人が、賃借人において賃借土地の一部を転貸している事実を知りながら、三年余にわたる賃貸人であつた期間中、なんらの異議を述べないで賃借人から賃料を取り立てていたときは、右転貸について黙示の承諾をしたものと認めるのが相当である。
土地の転貸借について黙示の承諾があつたものと認められた事例。
民法第1編第4章第1節,民法621条1項
判旨
賃借権の転貸に対する賃貸人の承諾は、明示のものに限られず、諸般の事情に基づき黙示に与えられたと認めることができる。
問題の所在(論点)
民法612条1項所定の「賃貸人の承諾」について、明示の承諾がない場合に、諸般の事情から「黙示の承諾」があったと認めることができるか。
規範
民法612条1項にいう賃貸人の承諾は、必ずしも明示の意思表示によることを要せず、賃貸人と賃借人との間の信頼関係や賃貸人の言動、転貸に至る経緯等の諸般の事情から、客観的に承諾があったと評価できる場合には、黙示の承諾が認められる。
重要事実
賃借人(被上告人)が目的物を転貸したことに対し、賃貸人(訴外D)がこれを知りながら異議を述べなかった等の事情が存在した。原審は、証拠に基づき認定された諸般の事情を総合し、賃貸人が転貸について黙示の承諾をしたものと判断した。
事件番号: 昭和39(オ)767 / 裁判年月日: 昭和40年9月21日 / 結論: 棄却
宅地の賃借人が借地上に所有する建物を同居の孫に贈与したのに伴い借地権を譲渡した場合において、賃貸人が賃借人の娘むこである等判示のような事情があるときは、右譲渡について賃貸人の承諾がなくても、賃貸人に対する信頼関係を破壊するに足りない特別の事情があるというべきである。
あてはめ
本件では、原審が認定した諸般の事情(具体的な事実は判決文からは不明だが、判旨によれば証拠に基づく諸事実が存在する)に基づけば、賃貸人が転貸を事実上容認していたと評価できる。したがって、賃貸人による黙示の承諾があったとする原審の判断は正当であり、無断転貸には当たらない。
結論
賃貸人の黙示の承諾が認められるため、本件転貸は有効であり、賃貸人は無断転貸を理由とする解除権を行使できない。
実務上の射程
民法612条の無断転貸の事案において、明示の承諾が欠ける場合であっても、賃貸人の認識や長期間の放置などの事実関係を拾い、本判例を根拠に「黙示の承諾」の成否を論じることができる。信頼関係破壊の理論(最判昭28・9・25等)と併せて、賃貸人の解除権行使を制限するための抗弁として活用される。
事件番号: 昭和39(オ)306 / 裁判年月日: 昭和40年6月4日 / 結論: 棄却
土地賃貸借契約の当事者間において、賃借地上の建物が第三者の所有に帰したときは賃借権は当然に消滅する旨の特約がなされた場合であつても、賃借人が第三者に譲渡した建物の敷地部分が借地全体からみて少部分であり、しかも、元来その余の部分とは別々の時期に別々に賃借され、従来から明確に区分されて使用されている等原判示の事情(原判決理…
事件番号: 昭和25(オ)140 / 裁判年月日: 昭和28年9月25日 / 結論: 棄却
賃借人が賃貸人の承諾なく第三者をして賃借物の使用または収益をなさしめた場合でも、賃借人の当該行為を賃貸人に対する背信的行為と認めるにたらない本件の如き特段の事情があるときは、賃貸人は民法第六一二条第二項により契約を解除することはできない。(少数意見および補足意見がある。)
事件番号: 昭和33(オ)229 / 裁判年月日: 昭和34年7月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】賃貸借契約において転貸・譲渡が書面による承諾を要する旨約定されている場合、長期間異議を述べなかった等の事情があっても、直ちに黙示の承諾があったとは認められない。 第1 事案の概要:賃貸人(被上告人)と賃借人(D)との間の賃貸借契約には、書面による承諾のない転貸・譲渡を禁止する条項が存在した。その後…
事件番号: 昭和36(オ)683 / 裁判年月日: 昭和38年9月13日 / 結論: 棄却
賃貸人の承諾を得て賃貸土地の転貸がなされた後に当該賃貸土地の所有権に変動があつた場合において、新所有者が賃貸人の地位を承継したときは、新所有者は転借権の付着した賃貸借関係を承継するものと解するのが相当である。