金銭の直接占有者は、特段の事情のないかぎり、その占有を正当づける権利を有するか否かにかかわりなく、金銭の所有者とみるべきである。
金銭の占有と所有。
民法188条,民法192条
判旨
金銭は単なる価値そのものとして扱われるため、特段の事情のない限り、その所有権者は占有者と一致し、占有を取得した理由や正当な権利の有無を問わず、占有者が価値の帰属者(所有者)となる。
問題の所在(論点)
詐欺によって交付を受け、あるいは横領によって占有を取得した金銭について、その所有権は依然として被害者に帰属するのか、それとも現実に占有を有する者に帰属するのか。
規範
金銭は、特別の場合を除いては、物としての個性を有せず、単なる価値そのものと解される。価値は金銭の所在に随伴するため、金銭の所有権者は、特段の事情のない限り、その占有者と一致する。また、金銭を現実に支配して占有する者は、取得理由や占有を正当化する権利の有無にかかわらず、金銭の所有者とみなされる。
重要事実
訴外Dは、上告人Aを欺いて11万余円の交付を受けた。また、Dが経営を任されていた店舗の売上金6万余円を着服横領した。Dはこれらを合わせた17万2300円を、自己の銀行預金を払い戻した金員であると称して執行吏に提出した。これに対し、上告人らは当該金員の所有権を主張した。
事件番号: 昭和44(オ)458 / 裁判年月日: 昭和47年5月25日 / 結論: 棄却
売主がb港において売買の目的物たる木材を引き渡すべき義務を負担する種類売買においては、木材が積出港たるa港の土場に集積されたからといつて、売買の目的物が右木材に特定されたものということはできない。
あてはめ
金銭の所有権は占有と一致するという原則に照らせば、11万余円についてはDが詐欺により上告人Aから交付を受けた時点で、6万余円についてはDが売上金を着服横領した時点で、それぞれの金銭の占有がDに移転している。したがって、Dがこれらの金銭を現実に支配して占有している以上、その取得過程に詐欺や横領という瑕疵があったとしても、金銭の所有権はDに帰属し、上告人らはその所有権を喪失したと評価される。
結論
金銭の所有権は占有者であるDに帰属するため、上告人らの所有権主張は認められない。
実務上の射程
金銭の「占有=所有」原則を確立した重要判例である。動産の即時取得(民法192条)の議論を経ることなく、占有の移転のみで所有権の帰属が決まる点に特徴がある。不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求といった債権的請求は可能だが、物権的請求権を行使することはできないという答案構成の基礎となる。
事件番号: 昭和34(オ)1087 / 裁判年月日: 昭和40年2月4日 / 結論: 破棄差戻
債権の一部を被保全債権として仮差押のなされた不動産の譲渡を受けた第三者は、右仮差押が本差押に移行した場合においても、被保全債権の弁済をすることにより、仮差押債権者に対する関係においても、完全に不動産の所有権を取得し、仮差押債権の右不動産に対する強制執行は、債務者以外の第三者の所有物件についてなされたこととなり、許されな…