国が国税滞納処分として債権を差し押さえ、その取立権を取得した場合において、第三債務者が債務者に対する反対債権をもつて被差押債権と相殺するには、債務者に対しても相殺の意思表示をすることができる。
受働債権につき国税滞納処分として差押がなされた場合と相殺の意思表示の相手方
民法511条,旧国税徴収法(昭和34年法律147号による改正前のもの)23条の1
判旨
債権差押えにおける第三債務者は、自働債権の弁済期が受働債権の弁済期より先に到来する場合に限り、相殺をもって差押債権者に対抗できる。また、将来の差押え等に備えた相殺予約も、同様の弁済期の前後関係にある場合に限定して有効となる。
問題の所在(論点)
1. 差押えを受けた第三債務者が、無制限な相殺を認める特約(相殺予約)に基づき、弁済期の前後関係を問わず相殺をもって差押債権者に対抗できるか(民法511条)。 2. 債権が差し押さえられた場合における相殺の意思表示の相手方は誰か。
規範
1. 債権の差押えを受けた第三債務者は、差押え当時既に両債権が相殺適状にある場合はもちろん、自働債権が未だ弁済期にない場合でも、受働債権の弁済期より先に(又は同時に)自働債権の弁済期が到来するときは、相殺をもって差押債権者に対抗できる(民法511条の反対解釈)。 2. 弁済期のいかんを問わず直ちに相殺適状を生じさせるとの相殺予約は、前示の弁済期の前後関係(自働債権の弁済期が受働債権と同じか、それ以前に到来する関係)にある場合に限って有効であり、それ以外の場合は差押債権者に対抗できない。 3. 相殺の意思表示は、受働債権が差し押さえられ差押債権者が取立権を有する場合であっても、債権の帰属主体である差押債務者に対してなすことができる(民法506条1項)。
重要事実
国税徴収法に基づき債権(預金債権)の差押えがなされた。第三債務者である銀行(被上告人)は、滞納者(債務者H)との間で、将来差押え等が生じた際には弁済期のいかんにかかわらず相殺できる旨の特約を締結していた。銀行は、本件差押え後にこの特約に基づき、Hに対する貸金債権等を自働債権として、差し押さえられた預金債権と相殺する旨の意思表示をHに対して行った。しかし、一部の預金債権(受働債権)については、自働債権たる貸金債権よりも先に弁済期が到来する関係にあった。
あてはめ
1. 自働債権が差押え当時既に弁済期にあり、または受働債権より先に弁済期が到来する場合、差押債権者の期待を不当に害することはないため、相殺の対抗が認められる。本件特約も、この範囲内でのみ有効である。 2. したがって、自働債権(貸金債権)の弁済期が受働債権(預金債権)より後に到来する部分については、特約があるとしても、差押えの効力を優先すべきであり、相殺をもって対抗できない。一方で、自働債権の方が先に弁済期が到来する、あるいは差押え時に適状であった部分については対抗可能である。 3. 相殺の相手方については、差押債権者が取立権を得ても債権自体は債務者Hに帰属しているため、Hへの意思表示は有効である。
結論
1. 自働債権の弁済期が受働債権より後に到来する範囲での相殺は差押債権者に対抗できず、その限度で預金債権は消滅しない。 2. 相殺の意思表示を差押債務者に対して行ったことは有効である。
実務上の射程
本判決は無制限説(弁済期の先後を問わない説)を否定し、後に大法廷判決(最判昭45.6.24)で確立される「無制限説」への過渡期的な判断を示している。現在の司法試験実務上は、民法511条2項の改正により、差押え後に取得した債権でない限り相殺可能(無制限説に近い構成)となっている点に注意が必要だが、意思表示の相手方に関する判示は依然として重要である。
事件番号: 昭和38(オ)971 / 裁判年月日: 昭和41年3月15日 / 結論: 棄却
信用組合に対し第三者振出の約束手形を裏書交付し割引金を受領した場合であつても、割引のつど当該手形金額の金員を貸し付けたものとする特約があり、組合は、振出人の資力を十分に調査し手形の実質上の価値を見定めて割引料を定めることはせず、むしろ割引依頼者の資力に重きをおき、これを信用して一率に一定の割引歩合で割引に応じており、割…
事件番号: 昭和32(オ)420 / 裁判年月日: 昭和34年6月25日 / 結論: 棄却
主たる債務者の委託を受けた保証人が将来免責行為をしたときに取得すべき求償権を担保する為に、主債務の額を極度額とする根抵当権が設定されていた場合、その保証人は、主債務の弁済期の到来後は、まだ免責行為をしてなくても、先順位抵当権による競売手続において極度額まで配当要求をなし得る。
事件番号: 昭和41(オ)135 / 裁判年月日: 昭和43年2月27日 / 結論: 棄却
請負代金債権に対する仮差押の効力発生後に、請負契約を当事者間の合意で解除しても、請負代金債権の消滅をもつて仮差押債権者に対抗することはできない。
事件番号: 昭和38(オ)237 / 裁判年月日: 昭和40年3月19日 / 結論: 棄却
公正証書には担保物件として土地および建物を供した旨の記載があるのに、その作成を嘱託した委任状には単に建物を供した旨の記載があるにすぎない場合にも、真実該公正証書記載どおりに作成すべき権限を有していたのに土地の記載を脱落したものであることが明らかなときは、右瑕疵は該公正証書の無効をきたす重大なものとは解されない。