信用組合に対し第三者振出の約束手形を裏書交付し割引金を受領した場合であつても、割引のつど当該手形金額の金員を貸し付けたものとする特約があり、組合は、振出人の資力を十分に調査し手形の実質上の価値を見定めて割引料を定めることはせず、むしろ割引依頼者の資力に重きをおき、これを信用して一率に一定の割引歩合で割引に応じており、割引いた手形を再割引することなく、不渡の場合でも振出人の責任を追及せず、当事者としては手形を買い取るという考えは薄く、むしろ割引依頼者に一定期間手形金額に相当する金員を利用させる考えであつた等原判決認定の事情(原判決理由参照)のもとにおいては、右手形取引は消費貸借と解することを妨げない。
信用組合に対し第三者振出の約束手形を裏書交付し割引金を受領した取引が消費貨借と認められた事例。
民法第1編第4章第1節総則,民法587条
判旨
銀行等の手形割引は実質的に利息天引の金銭消費貸借にあたり、額面全額について要物性を満たす。また、債権差押えにおける相殺の対抗要件は、反対債権の弁済期が自働債権のそれより先に到来すれば足りる。
問題の所在(論点)
1. 割引料が天引きされる手形割引において、消費貸借の要物性は名目元本額について認められるか。2. 差押え前に取得した反対債権の弁済期が差押え後に到来する場合、差押債務者に対する相殺の対抗要件(無制限説の射程)は如何に解すべきか。
規範
1. 手形割引の法的性質は金銭消費貸借であり、手形金額から割引料を差し引いて交付した場合でも、名目元本(手形金額)全額について要物性が充足される。2. 第三債務者は、差押え前に取得した反対債権の弁済期が、差押え後に到来する場合であっても、被差押債権の弁済期より先に(または同時に)到来する関係にあれば、差押債権者に対し相殺を対抗できる。
重要事実
被上告組合はD社との間で手形取引を行い、手形金額から割引料を差し引いた残額を交付する「手形割引」を実施した。その後、上告人がD社の被上告組合に対する債権を差し押さえた。これに対し被上告組合は、差押え前に取得していた手形割引に基づく債権を自働債権とし、差し押さえられた債権との相殺を主張して対抗した。なお、自働債権の弁済期は差押え時点で未到来であったが、受働債権の弁済期よりは先に到来する関係にあった。
あてはめ
1. 手形割引は実質において金銭消費貸借である。割引料の天引きは利息制限法の適用等における利息天引と同様であり、経済的には手形金額全額の貸付がなされたのと同視できるため、要物性は手形金額全額について認められる。2. 差押えによる相殺権の制限(民法511条)に関し、本件の反対債権は差押え前に取得されており、かつ、その弁済期は被差押債権のそれよりも先に到来する。この場合、第三債務者は相殺への期待を有しており、差押えという偶然の事情によってその地位を奪われるべきではない。
結論
被上告組合による手形金額全額を元本とする消費貸借の成立は認められ、また、弁済期の前後関係に基づき差押債権者に対して相殺を対抗することができる。したがって、上告人の請求は棄却される。
実務上の射程
手形割引の法的性質を消費貸借と構成する際の基礎となる判例である。また、民法511条の解釈において、昭和39年大法廷判決が示した「無制限説」を再確認し、弁済期の前後関係(自働債権の弁済期≦受働債権の弁済期)があれば、差押え後に弁済期が到来する債権でも相殺可能であるという判断基準を実務上定着させた。
事件番号: 昭和37(オ)743 / 裁判年月日: 昭和40年7月20日 / 結論: その他
国が国税滞納処分として債権を差し押さえ、その取立権を取得した場合において、第三債務者が債務者に対する反対債権をもつて被差押債権と相殺するには、債務者に対しても相殺の意思表示をすることができる。