公正証書には担保物件として土地および建物を供した旨の記載があるのに、その作成を嘱託した委任状には単に建物を供した旨の記載があるにすぎない場合にも、真実該公正証書記載どおりに作成すべき権限を有していたのに土地の記載を脱落したものであることが明らかなときは、右瑕疵は該公正証書の無効をきたす重大なものとは解されない。
公正証書の作成を嘱託する委任状の記載と公正証書の記載との間にそごがあつても公正証書の無効をきたさないとされた事例。
公証人法32条,公証人法41条
判旨
金銭消費貸借の損害金約定が利息制限法または公序良俗に反する場合であっても、特段の事情がない限り、消費貸借契約自体の効力や、その公正証書の他の部分の効力には影響を及ぼさない。
問題の所在(論点)
1. 利息制限法または公序良俗に反する損害金約定の存在が、公正証書の他の部分(消費貸借契約等)の効力に影響を及ぼすか。 2. 委任状の記載(建物のみ)と公正証書の記載(土地・建物)に齟齬がある場合、公正証書は無効となるか。
規範
契約の一部(例えば損害金の約定)に無効事由(旧利息制限法違反や公序良俗違反)がある場合であっても、その部分が契約の不可分な一体をなす等の特段の事情がない限り、契約の他の部分(消費貸借の基本部分)の効力を直ちに無効にするものではない。また、嘱託代理人の代理権を証する書面に軽微な記載漏れがある等の形式的瑕疵があったとしても、当事者の真意に基づき、実体的な代理権の範囲内で行われたものであれば、公正証書が無効になるほどの重大な瑕疵とは認められない。
重要事実
上告人は被上告人との間で金銭消費貸借契約を締結し、土地および建物を担保とする公正証書を作成した。当該公正証書には月六歩という高利の遅延損害金約定が含まれており、上告人はこれが公序良俗等に反し無効であると主張した。また、公正証書の作成を嘱託した委任状には、担保物件として「建物」の記載しかなかったが、公正証書には「土地および建物」が記載されていた。上告人は、委任状と公正証書の不一致から、当該公正証書は無効であると主張して争った。
事件番号: 昭和32(オ)834 / 裁判年月日: 昭和35年11月17日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】公正証書に記載された債務額が、その後の合意等により減額された場合であっても、当該公正証書は減額された範囲内において実体的真実に合致し、執行力を保有し続ける。 第1 事案の概要:債務者である上告人らは、講の管理人である被上告人との間で、掛戻金76万8000円について公正証書を作成した。その後、諸般の…
あてはめ
1. 損害金の約定が旧利息制限法により減額されるべき場合や、仮に公序良俗に反する場合であっても、それは当該約定部分の効力に関する問題にすぎない。本件の基本たる消費貸借自体、ひいては公正証書のその他の部分の効力に消長をきたすものではないと解するのが相当である。 2. 委任状に土地の記載が脱落していた点については、上告人が実際には土地および建物の双方を担保に供して公正証書作成を嘱託する意思を有しており、代理人がその真意に基づき嘱託したことが認められる。そうであれば、委任状の不備は形式的なものにとどまり、公正証書の無効をきたす重大な瑕疵とはいえない。
結論
本件公正証書に基づく消費貸借および担保の記載は有効であり、一部の約定に無効の疑いがあることや委任状の記載漏れを理由に全体の無効を主張することはできない。
実務上の射程
契約の一部無効が全体に及ぶかという点について、民法133条(旧103条参照)の「公序良俗違反による一部無効」の射程を限定的に捉える際の根拠となる。実務上、金利等の不当条項が含まれていても契約本体の有効性を維持したい場面や、公正証書の作成手続きにおける軽微な瑕疵を争う場面で活用できる。
事件番号: 昭和27(オ)967 / 裁判年月日: 昭和29年7月30日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】利息制限法所定の制限を超える利息債務を目的として締結された準消費貸借契約は、制限利率の範囲内においてのみ有効であり、それを超える部分は無効となる。 第1 事案の概要:債権者(上告人)は、債務者(被上告人)に対し、7,500円を貸し付けた。その際、利息を月1割5分とする合意がなされた。その後、この利…
事件番号: 昭和29(オ)738 / 裁判年月日: 昭和31年9月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】私文書の思想内容ではなく、その存在自体や記載文字・印影の形状を証拠とする場合には、民事訴訟法上の文書の真正な成立を証明する必要はない。 第1 事案の概要:上告人の代理人と称するDが、上告人から預かっていた印章を用いて根抵当権設定契約書や約束手形等(乙各号証)を作成した。原審は、これら私文書の成立の…
事件番号: 昭和28(オ)290 / 裁判年月日: 昭和30年2月22日 / 結論: 棄却
利息制限法(旧法)第二条超過の約定利率による遅延利息を債務者が任意に支払つたときは、右超過部分の返還を請求することはできない。