判旨
公正証書に記載された債務額が、その後の合意等により減額された場合であっても、当該公正証書は減額された範囲内において実体的真実に合致し、執行力を保有し続ける。
問題の所在(論点)
公正証書に記載された債務額が作成後に減額された場合、当該公正証書の執行力は維持されるか。実体的真実との不一致が執行力に及ぼす影響が問題となる。
規範
債務名義となるべき公正証書の内容と実体的な権利関係との間に一部不一致が生じた場合であっても、その不一致が債務の減額に起因するものであり、実体的真実の範囲内(減額後の残債務の範囲)に収まっている限り、当該公正証書はその限度で適法な執行力を有する。
重要事実
債務者である上告人らは、講の管理人である被上告人との間で、掛戻金76万8000円について公正証書を作成した。その後、諸般の事情により当該債務は51万2000円に減額され、分割弁済の約定がなされた。さらに一部弁済等を経て、残元金は48万8000円(及び遅延損害金)となった。上告人らは、公正証書に記載された額と実態が異なること等を理由に、その執行力等を争った。
あてはめ
本件公正証書は、当初の76万8000円から減額された51万2000円の範囲内においては、実体的真実に合致しており、形式上も適式に作成されている。債務が減額されたからといって、公正証書全体の効力が否定されるわけではない。したがって、減額後の残債務48万8000円の範囲内において、本件公正証書はなお執行力を保有し、これに付随する抵当権も存続すると解される。また、錯誤や詐欺等の取消事由も認められない。
結論
公正証書は減額された債務の範囲内で執行力を有する。本件では残元金48万8000円の限度で執行力を認め、上告を棄却した。
実務上の射程
事件番号: 昭和38(オ)237 / 裁判年月日: 昭和40年3月19日 / 結論: 棄却
公正証書には担保物件として土地および建物を供した旨の記載があるのに、その作成を嘱託した委任状には単に建物を供した旨の記載があるにすぎない場合にも、真実該公正証書記載どおりに作成すべき権限を有していたのに土地の記載を脱落したものであることが明らかなときは、右瑕疵は該公正証書の無効をきたす重大なものとは解されない。
債務名義の内容と実体関係が一部異なる場合でも、実体関係が債務名義の範囲内に包含される(債務の一部消滅や減額)のであれば、残存部分について執行力を認める実務上の指針となる。請求異議の訴え等において、全額の執行力排除を認めるべきか、一部認容にとどめるべきかの判断基準として機能する。
事件番号: 昭和32(オ)420 / 裁判年月日: 昭和34年6月25日 / 結論: 棄却
主たる債務者の委託を受けた保証人が将来免責行為をしたときに取得すべき求償権を担保する為に、主債務の額を極度額とする根抵当権が設定されていた場合、その保証人は、主債務の弁済期の到来後は、まだ免責行為をしてなくても、先順位抵当権による競売手続において極度額まで配当要求をなし得る。
事件番号: 昭和29(オ)738 / 裁判年月日: 昭和31年9月18日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】私文書の思想内容ではなく、その存在自体や記載文字・印影の形状を証拠とする場合には、民事訴訟法上の文書の真正な成立を証明する必要はない。 第1 事案の概要:上告人の代理人と称するDが、上告人から預かっていた印章を用いて根抵当権設定契約書や約束手形等(乙各号証)を作成した。原審は、これら私文書の成立の…
事件番号: 昭和32(オ)1186 / 裁判年月日: 昭和33年5月24日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】昭和29年法律第100号による利息制限法の施行前になされた損害金の特約は、特段の事情がない限り、裁判所が当然に減額すべきものではない。 第1 事案の概要:上告人と被上告人との間で、利息を月6分、損害金を月6分以上(日歩20銭ないし30銭)とする金銭消費貸借上の約定がなされた。本件契約は、昭和29年…