私文書の押印部分がその名義人の印鑑によつて作出されたものであることが認められる場合であつても、右押印が名義人の意思に基づかないことが認定される以上、民訴法第三二六条の適用はありえない。
民訴法第三二六条の法意。
民訴法326条
判旨
私文書の印影が本人の印鑑によるものであっても、その押印が本人の意思に基づかないことが認定される場合には、民訴法228条4項(旧326条)による成立の真正の推定は働かない。
問題の所在(論点)
文書の印影が本人の印鑑と一致する場合であっても、印鑑の冒用(盗用)等の事情が認められるときに、民訴法228条4項による文書の成立の真正の推定が維持されるか。
規範
私文書の成立の真正については、民事訴訟法228条4項(旧326条)により、本人又は代理人の署名又は押印があるときは真正に成立したものと推定される。しかし、押印が本人の印鑑によってなされた場合であっても、その押印が名義人の意思に基づかないことが認定されるときは、同条項による成立の真正の推定は適用されない。
重要事実
被上告人(所有者)の実姉である上告人は、被上告人から家屋の贈与を受けたと主張し、被上告人の印影がある売渡証書等を提出した。しかし、上告人は被上告人の石炭販売業を手伝い、金庫の鍵や印鑑、重要書類を保管する立場にあった。また、贈与があったとされる時期、被上告人は軍隊に所属しており面会が困難な状況であった。さらに、被上告人は長年固定資産税を支払い、当該家屋に抵当権を設定するなど所有者として振る舞う一方、上告人は長期間移転登記を求めていなかった。
あてはめ
本件において、書証上の印影は確かに被上告人の印鑑によるものであるが、上告人は被上告人の印鑑を保管し得る立場にあった。加えて、贈与当時の被上告人の所在状況や、その後の固定資産税の負担、登記未了のままの放置といった客観的事実に照らせば、当該文書は被上告人の不知の間にその意に反して作成されたもの(冒用)と推認される。このように押印が名義人の意思に基づかないことが認定される以上、印影の一致のみをもって文書の成立の真正を推定することはできない。
結論
私文書の押印が名義人の意思に基づかないことが認定される場合には、民訴法228条4項の推定は適用されない。したがって、贈与を証する書面の成立を認めなかった原審の判断は正当である。
実務上の射程
二段の推定のうち「第一段階の推定(印影が本人の印鑑と一致すれば、本人の意思に基づく押印と推定される)」を、本人の印鑑保管状況やアリバイ等の反証によって覆すことができることを示した実務上極めて重要な判例である。
事件番号: 昭和38(オ)1180 / 裁判年月日: 昭和41年1月13日 / 結論: 棄却
不動産の贈与を予定し、受贈者たるべき者の関与なくして右不動産について同人名義の所有権取得登記手続がなされた場合でも、後日右不動産の贈与が行われたときは、受贈者は、右不動産所有権の取得をもつて第三者に対抗することができる。