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違約行為による損害賠償債権をもつてする相殺の抗弁を排斥した点に審理不尽・理由不備の違法があるとされた事例。
判旨
注文を受けた生地の裁断・納入後に予定の製本冊数が確保できなかった場合、裁判所は、不足の原因が裁断方法にあるか否か、および当該裁断が注文者の指示に基づくか受託者の独断か等の事実を審理せずに相殺の抗弁を排斥してはならない。
問題の所在(論点)
目的物が納入されたものの、予定された数量の製品が確保できなかった場合において、その原因や指示の帰属を明らかにすることなく相殺の抗弁を排斥することが許されるか。
規範
請負契約またはこれに類する契約において、履行の結果が注文の目的を達しない場合、その不完全な履行が受託者の責めに帰すべき事由によるものか、あるいは注文者の指示等によるものかを具体的に確定すべきである。これらを審理せず、債務不履行や瑕疵に基づく損害賠償請求権を自働債権とする相殺の抗弁を排斥することは、審理不尽・理由不備として許されない。
重要事実
上告人は被上告人に対し、表紙用生地1312ヤールの注文を行った。被上告人はこれを長さ6尺1寸5分に裁断し、計640枚を納入した。しかし、当該生地を用いて製本したところ、1930冊分しか製作できなかった。上告人は、この数量不足等に基づく損害賠償請求権を自働債権として、代金債務との相殺の抗弁を主張した。
あてはめ
本件では、1312ヤールの生地から裁断された640枚の生地により1930冊分しか製本できなかった事実が認められている。この原因が「6尺1寸5分」という裁断の長さに起因するのか、また、その裁断が上告人の具体的な指示によるものか、あるいは被上告人が独断で行ったものかについて、事実関係の確定が必要である。原審は、裁断・納入の事実を認めながら、これらの点について審理を尽くさず、漫然と相殺の抗弁を排斥しており、判断の前提となる事実認定に欠けるところがある。
結論
原判決には審理不尽、理由不備の違法があるため、破棄を免れない。裁断の指示系統や不足の原因を審理させるため、本件を原審に差し戻す。
実務上の射程
契約の履行内容に不備がある場合の債務不履行責任の有無を判断するにあたり、具体的態様(本件では裁断方法)と結果(数量不足)の因果関係、および指示の帰属という要件について、裁判所に厳格な審理を求める事案として活用できる。
事件番号: 昭和36(オ)697 / 裁判年月日: 昭和38年10月29日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】手形割引契約において割引代金の一部が不交付であっても、原因関係の当事者でない手形債務者は、割引依頼人が割引人に対して有する対価欠缺の抗弁を援用して対抗することはできない。 第1 事案の概要:上告人(振出人)が振り出した本件手形について、訴外Dと被上告人の間で手形割引契約が成立した。被上告人はDに対…