判旨
文書の作成名義が否認され、かつその真正な成立を認めるべき証拠がない場合、当該文書を証拠として採用することはできない。また、判決において真正を仮定してなされた傍論的な判断は、結論に影響を及ぼさない。
問題の所在(論点)
文書の成立の真正が否認され、立証がなされていない場合に、その文書を証拠として採用できるか。また、判決における仮定的な付加的判断(傍論)に対して上告理由を構成できるか。
規範
私文書の真正な成立が争われた場合、挙証者がその成立を証明しなければならず、成立を認めるべき証拠がないときは、当該文書を事実認定の基礎とすることはできない。また、判決の結論が証拠の不成立という理由で導かれている場合、その余の仮定的な判断は判決の基礎とはならない。
重要事実
上告人は甲第1号証を提出したが、被上告人はその作成名義の部分につき署名捺印ともに成立を否認した。原審は、当該文書の成立を認めるべき証拠がないとして証拠力を否定した上で、「仮に甲第1号証が真正に成立したものとすれば」という仮定の下に本件解決に関する判断を付加した。上告人は、この仮定的な判断部分を不服として上告した。
あてはめ
本件では、被上告人が甲第1号証の署名捺印を否認しており、かつ成立を認めるに足りる証拠も存在しない。したがって、原審が同証拠の成立を認めなかった判断に誤りはない。原判決が「仮に真正に成立したとすれば」と述べている部分は、証拠の不成立という主要な判断に対する補足、いわば蛇足にすぎず、判決の結論を左右するものではない。
結論
本件上告は棄却される。真正な成立が証明されない文書を証拠として採用することはできず、結論に影響しない付加的判示への不服は上告理由とならない。
実務上の射程
文書の証拠能力(成立の真正)に関する民事訴訟法上の原則を確認するものである。実務上は、相手方が文書の成立を否認した場合には、二段の推定(民訴法228条4項)の前提となる印影の真正等を別途立証する必要があることを示唆している。また、傍論部分に対する不服申し立ての限界についても示している。
事件番号: 昭和27(オ)784 / 裁判年月日: 昭和28年11月10日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律所定の上告理由に該当せず、かつ法令の解釈に関する重要な主張も含まない場合、上告は棄却される。 第1 事案の概要:上告人が原判決に憲法違反がある等と主張して上告を提起した事案。しかし、その主張の前提となる部分は事実誤認論や独自の法律論に依拠するも…