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約束手形の割引あつ旋を委託された者を正当な権利者なりと信じて手形を割り引いた者がその結果生じた事態について予見の事実または予見すべき注意義務があるとはいえないとしてその不法行為責任が否定された事例。
判旨
手形割引を依頼されたに過ぎない者が権限なく割引金の使途を合意した事情を知らずに割り引いた取得者につき、その後の不渡り等に伴う振出人の損害について、予見可能性がなく故意・過失を欠くと判断された事例。
問題の所在(論点)
手形割引の斡旋を委託された者が権限を越えて割引金の使途を合意し、結果として振出人に損害が生じた場合、当該事情を知らずに割り引いた取得者に、不法行為上の故意・過失(予見可能性)が認められるか。
規範
不法行為(民法709条)に基づく損害賠償責任が認められるためには、加害者に結果の発生を予見すべき注意義務があること、または現に結果を予見していたこと(故意・過失)を要する。
重要事実
上告会社(振出人)は、他社からの割引を得るため約束手形を振り出し、Eに割引の斡旋を委託した。しかしEは、割引金をG通商の債務弁済に充当する合意をする権限がないにもかかわらず、被上告会社(割引実行者)との間で取引を行った。被上告会社はEが正当な権利者であると信じ、Eの権限制限を知らずに手形を割り引いて取得し、さらに銀行で再割引を受けた。その後、手形が支払呈示されたが支払拒絶となり、上告会社は銀行から手形を買い戻すための金員(63万円)を出捐するに至った。
あてはめ
被上告会社の支配人は、Eが割引の斡旋を委託された者に過ぎず、割引金を他社の債務弁済に充てる合意をする権限を有しないという事情を知らなかった。被上告会社はEを正当な権利者として本件手形を取得しており、その後の再割引や、支払拒絶に伴い上告会社が買戻金を出捐するという一連の事態を予見すべき注意義務があったとはいえない。また、現に予見していた事実も認められない。
結論
被上告会社には損害を帰せしめるべき故意・過失の要件を欠くため、上告会社の損害賠償請求は認められない。
実務上の射程
手形取引における善意の第三者の保護という観点から、不法行為責任の成立を限定的に解釈した事例。過失の有無を判断する際、相手方の権限欠如に関する認識(善意無過失に近い状態)が、結果発生の予見可能性を否定する重要な要素となることを示唆している。
事件番号: 昭和34(オ)478 / 裁判年月日: 昭和37年6月19日 / 結論: 棄却
民法第七〇四条の悪意の受益者とは、法律上の原因のないことを知りながら利得した者をいう。