民法第七〇四条の悪意の受益者とは、法律上の原因のないことを知りながら利得した者をいう。
民法第七〇四条にいう「悪意の受益者」の意義。
民法704条
判旨
民法704条の「悪意の受益者」とは、法律上の原因がないことを知りながら利得した者をいい、要素の錯誤により法律行為が無効であることを知りつつ利得を受領した場合がこれに当たる。
問題の所在(論点)
不当利得返還請求(民法703条、704条)における「悪意の受益者」の意義、および要素の錯誤により法律行為が無効(当時の通説的解釈)とされる場合における悪意の判断基準が問題となる。
規範
民法704条にいう「悪意の受益者」とは、法律上の原因がないことを知りながら利得した者を指す。本件のように、要素の錯誤によって契約が法律上無効である場合には、給付を受けた者がその利得の受領当時、または受領後において、当該行為が要素の錯誤により無効であること(すなわち当事者間に意思の合致がないこと)を知っていたか否かによって悪意の成否を判断する。
重要事実
上告人は、訴外Dの被上告銀行に対する債務を代位弁済するに際し、2万円を支払えば、D所有の工場だけでなく居宅の抵当権も抹消されると確信していた。しかし、被上告銀行側は工場のみの抵当権を抹消する趣旨であり、両者の意思に食い違い(錯誤)があった。工場の価値は約3千円、居宅は約4万5千円であり、2万円の支払いで計約8万円の債務に係る双方の抵当権を抹消することは取引通念上考えにくい状況であった。上告人は、錯誤による無効を理由に既払金の返還を求めたが、銀行が「悪意の受益者」に当たるかが争点となった。
事件番号: 平成18(受)276 / 裁判年月日: 平成19年7月13日 / 結論: 破棄差戻
利息制限法1条1項所定の制限を超える利息を受領した貸金業者が,その預金口座への払込みを受けた際に貸金業の規制等に関する法律18条1項に規定する書面を債務者に交付していなかったために同法43条1項の適用を受けられない場合において,当該貸金業者が,事前に債務者に約定の各回の返済期日及び返済金額等を記載した償還表を交付してい…
あてはめ
悪意の受益者というためには、単に事実を知っているだけでなく、法律上の原因がないことの認識を要する。本件では、上告人と銀行との間で抵当権抹消の対象物件について意思の食い違い(錯誤)が存在していたとしても、銀行側が「自らの認識と上告人の認識が異なり、そのために契約が錯誤により無効であること」までを知って利得を受領したと認めるに足りる証拠はない。したがって、銀行が悪意の受益者であるとはいえない。
結論
民法704条の「悪意」とは法律上の原因がないことの認識を指す。本件銀行には、錯誤による無効を認識して受領した事実が認められないため、悪意の受益者には当たらない。
実務上の射程
不当利得の利息付返還義務を課すための「悪意」の定義を明確にした。錯誤無効(現行法上の取消し)の場合、単に錯誤の事実を知っているだけでなく、それによって法律上の効力が発生しないことを認識している必要があるという主観的要件の厳格さを示す。実務上は、利息付請求を行う際の立証責任の所在と対象を特定する指針となる。
事件番号: 昭和26(オ)298 / 裁判年月日: 昭和30年5月13日 / 結論: 破棄差戻
法人の使用人(A支所長事務取扱)が法人の目的の範囲外の取引をしたことに基き、法人に不当利得ありとされる場合において、右利得につき右使用人の悪意を以て法人の悪意とすることはできない。
事件番号: 平成21(受)47 / 裁判年月日: 平成21年9月4日 / 結論: その他
貸金業者が借主に対し貸金の支払を請求し借主から弁済を受ける行為が不法行為を構成するのは,貸金業者が当該貸金債権が事実的,法律的根拠を欠くものであることを知りながら,又は通常の貸金業者であれば容易にそのことを知り得たのに,あえてその請求をしたなど,その行為の態様が社会通念に照らして著しく相当性を欠く場合に限られ,この理は…
事件番号: 平成17(受)1970 / 裁判年月日: 平成19年7月13日 / 結論: その他
1 貸金業者が返済方式を元利均等方式とする貸付けをするに際し,貸金業の規制等に関する法律17条1項に規定する書面に当たるものとして借用証書の写しを借主に交付した場合において,(1)当該借用証書写しの「各回の支払金額」欄に,一定額の元利金の記載と共に「別紙償還表記載のとおりとします。」との記載があり,償還表は借用証書写し…
事件番号: 平成27(受)1394 / 裁判年月日: 平成28年12月19日 / 結論: 破棄自判
信用保証協会と金融機関との間で保証契約が締結され融資が実行された後に主債務者が中小企業者の実体を有しないことが判明した場合において,上記保証契約の当事者がそれぞれの業務に照らし,上記の場合が生じ得ることを想定でき,その場合に信用保証協会が保証債務を履行しない旨をあらかじめ定めるなどの対応を採ることも可能であったにもかか…