判示事情のもとにおいては、原判決には、債務弁済受領資格の有無、請負契約の合意解除に基づく清算完了の有無等について、審理不尽、理由不備がある。
債務弁済受領資格の有無、請負契約の合意解除に基づく清算完了の有無等について審理不尽理由不備があるとされた事例。
民訴法395条1項6号
判旨
債務者が債権者の代表者と称する者に弁済した場合、その者が真実の代表権を有しないときは、表見代理または債権の準占有者に対する弁済(民法478条)の要件を満たさない限り、その弁済を差押債権者に対抗できない。
問題の所在(論点)
債権の仮差押えを受けた第三債務者が、差押え前に債権者の「代表者」と称する者に弁済したと主張する場合、その弁済の有効性が認められるための要件、および債権の消滅を認めるための事実認定のあり方が問題となる。
規範
債務者が債権者の代理人と称する者に弁済した場合において、その弁済が有効となるためには、①その者に真実の代理権(代表権)があること、②代理権がない場合には、民法109条、110条等の表見代理の要件を具備していること、または③民法478条の債権の準占有者に対する弁済として善意無過失の要件を満たすことを要する。
重要事実
上告人(債権者)は、D社が被上告人(第三債務者)に対して有する請負代金債権を仮差押えした。被上告人は、仮差押決定の送達前に、D社の代表者と称するEに対し、代金の一部として40万円の小切手を交付して支払ったと主張。しかし、EがD社の代表取締役であるか、または正当な代理権を有していたかは証跡がなく不明であった。また、仮差押え後にD社と被上告人が請負契約を合意解約した際、解約日以降にD社が作成した領収証が存在するなど、清算の完了や債権の消滅に関し不自然な点が認められた。
あてはめ
被上告人がEに小切手を交付した行為が有効な弁済となるには、Eに代表権または代理権が認められる必要があるが、原審はこれを十分に審理していない。Eが自称代理人であっても、表見代理(民法109条、110条)の要件を具備するか、あるいはEが債権の準占有者(民法478条)といえる事情があれば有効となり得るが、被上告人からそれらの主張・立証はない。また、合意解約後の日付でD社名義の領収証が発行されている事実に照らせば、解約時に清算が完了し債権が消滅したとする認定には合理性が欠ける。
結論
Eに対する小切手交付が有効な弁済であるか、または合意解約により債権が消滅したかについて、審理不尽・理由不備がある。したがって、これらを有効として上告人の請求を排斥した原判決は破棄を免れない。
実務上の射程
受領権限のない者への弁済が差押債権者に対抗できるかを論じる際、代理権の有無、表見代理、債権の準占有者(478条)の各検討段階を明確にする必要がある。また、第三債務者による弁済や合意解約の主張に対し、取引上の不自然な点(領収証の日付等)を指摘して事実認定を争う際の指針となる。
事件番号: 昭和38(オ)555 / 裁判年月日: 昭和40年7月20日 / 結論: 棄却
仮差押中の債権につき別の債権者が差押をした場合、当該債権につき取立命令を得た差押債権者に対する第三債務者の弁済については、民法第四八一条は適用されず、右弁済は仮差押債権者その他配当に与かるべき者全員に対してもその効力を有するものと解すべきである。
事件番号: 昭和46(オ)521 / 裁判年月日: 昭和49年10月24日 / 結論: 棄却
第三債務者が債権仮差押命令の送達を受ける前に債務者に対し債務支払のために小切手を振り出していた場合には、右送達後にその小切手が支払われたとしても、第三債務者は右債務の消滅を仮差押債権者に対抗することができる。