買主の違約があつても、売主が手附没収の意思表示をするまでは、売買契約は終了しないから、その後において売主の債務がその責に帰すべき事由によつて、履行不能となつた場合には、買主は手附倍戻しの請求ができる。
買主違約の場合と手附没収の意思表示の要否。
民法557条
判旨
売主が目的物を第三者に譲渡し、買戻しの合意により履行が可能な状態にあっても、買戻権を行使せずに約定期間が経過し再取得の意思を失った場合は、その時点で債務は履行不能となる。また、違約により当然に契約が終了する旨の特約がない限り、一方の違約があっても相手方の意思表示がない間は契約は存続し、その後の履行不能に基づく請求を妨げない。
問題の所在(論点)
1.売主が目的物を第三者に譲渡し、かつ再取得のための買戻し期間が経過した場合に、履行不能の成否およびその時期をいかに解すべきか。 2.一方の違約(代金提供の懈怠)がある場合、相手方が契約解消の意思表示をしない限り、契約上の義務は存続するか。
規範
債務者が目的物を第三者に売却し、所有権移転登記を完了した場合であっても、債務者に当該目的物を再取得して債権者に移転し得る事情がある限り、直ちに履行不能とはならない。しかし、再取得の手段(買戻権等)を行使し得ない状態に至り、または再取得の意思が客観的に認められなくなった時点をもって、債務は社会通念上の履行不能(民法412条の2第1項参照)に陥るものと解すべきである。また、違約時の手附没収・倍戻しの約定は、当事者による意思表示がなされた時に初めて契約終了の効果を生じ、それまでは債務履行の責を免れない。
重要事実
売主(被告・上告人)は、買主(原告・被上告人)に対し本件建物を売却する契約を締結していたが、これとは別に第三者Dに対しても本件建物を売却し、移転登記を了した。その際、売主はDとの間で、半年間は一定代金で買い戻せる旨の約定を付していた。その後、売買契約の履行期に買主が代金を持参しなかった等の事情があったが、売主は買主に対し手附没収等の契約終了の意思表示を行わなかった。やがて、Dとの買戻し期間が経過し、Dに売戻しの意思がなくなったことで、売主による建物の再取得が不可能となった。
あてはめ
1.売主が第三者Dに建物を売却した時点では、買戻しの約定が存在していたため、直ちに履行不能とはいえない。しかし、6か月の買戻し期間が経過し、かつDが売戻しの意思を失った時点において、売主が目的物を再取得して買主へ移転する可能性は客観的に消滅した。したがって、この期間経過時をもって履行不能が確定したといえる。 2.本件手附金契約の趣旨によれば、違約があったとしても、相手方による手附倍戻しの請求や手附没収の意思表示があって初めて契約は終了する。売主は買主の代金提供懈怠を理由とする手附没収の意思表示を行っていないため、契約は依然として存続しており、その後に生じた履行不能について売主は責任を負わなければならない。
結論
売主の債務は、買戻期間の経過により履行不能となった。売主は、買主に対し約定に基づき手附金の倍額を支払う義務を負う。
実務上の射程
二重売買において、売主が目的物の所有権を喪失しても再取得の余地がある間は履行不能とならないとする「履行不能の相対性」を確認しつつ、その限界(買戻権の喪失等)を明確にした判例である。答案上は、債務不履行(履行不能)の成立要件を論じる際のあてはめで、再取得の可能性の有無を検討する際の指標として活用できる。
事件番号: 昭和37(オ)880 / 裁判年月日: 昭和38年9月5日 / 結論: 棄却
違約手附金の約定が契約関係を清算する趣旨のものである場合は、右違約手形附金を交付した者が相手方の違約を理由として手附金倍戻を請求するためには、あらかじめ契約解除の手続を経ることを要しない。