双務契約の当事者の一方が自己の債務の履行をしない意思を明確にした場合には、相手方が自己の債務の弁済の提供をしなくても、右当事者の一方は、自己の債務の不履行について履行遅滞の責を免れることをえないものと解するのが相当である。
双務契約の当事者の一方が債務の履行をしない意思を明らかにした場合と同時履行の抗弁権
民法533条,民法415条
判旨
双務契約の当事者の一方が自己の債務の履行をしない意思を明確にした場合には、相手方は自己の債務の弁済の提供をしなくても、当該当事者に対して履行遅滞の責任を問うことができる。
問題の所在(論点)
双務契約において一方が履行拒絶の意思を明確にした場合、他方は自己の債務の提供(民法412条、533条参照)をしなければ相手方の履行遅滞責任を問うことができないか。
規範
双務契約において、当事者の一方が自己の債務の履行をしない意思が明確な場合には、相手方において自己の債務の弁済の提供(民法492条、493条)をしなくても、当該当事者は自己の債務の不履行について履行遅滞の責任を免れることはできない。
重要事実
買主(被上告人)は売主(上告人)から、代金300万円、所有権移転登記および代金支払の履行期を昭和33年4月30日として不動産を買い受けた。しかし、売主は履行期前の同年4月3日に、買主に債務不履行があると言い掛かりをつけて契約解除の意思表示を行い、目的物を第三者に賃貸した。買主は、自己の代金支払義務の提供を行わないまま、売主に対して履行遅滞に基づく責任を追及した。
あてはめ
売主は、履行期前に一方的な解除の意思表示を行い、さらに目的物を第三者に賃貸するという、自らの債務(引渡・登記移転義務)を履行しない意思を客観的に明確にする行動をとっている。このような事実関係のもとでは、売主の履行拒絶の意思は明確であるといえる。したがって、信義則上、買主が自己の代金債務の弁済の提供をすることは不要であり、提供がなくとも売主は履行遅滞の責を免れない。
結論
売主の履行拒絶の意思が明確であるため、買主は自己の債務の弁済の提供をすることなく、売主の履行遅滞責任を問うことができる。
実務上の射程
同時履行の抗弁権(533条)が存する場合、相手方を履行遅滞に陥らせるには原則として弁済の提供(492条)が必要だが、相手方の履行拒絶が明確な場合にはその提供を不要とする法理である。答案上は、催告による解除(541条)や損害賠償請求において、提供の要否を検討する場面で使用する。改正民法541条但書等の趣旨とも整合する。
事件番号: 昭和36(オ)1417 / 裁判年月日: 昭和39年1月24日 / 結論: 棄却
買主の違約があつても、売主が手附没収の意思表示をするまでは、売買契約は終了しないから、その後において売主の債務がその責に帰すべき事由によつて、履行不能となつた場合には、買主は手附倍戻しの請求ができる。