一 双務契約の当事者の一方が自己の債務の履行をしない意思を明確にした場合には、相手方が自己の債務の弁済の提供をしなくても、右当事者の一方は、自己の債務の不履行について、履行遅滞の責を免れることをえないものと解するのが相当である(昭和三八年(オ)第三二二号、同四一年三月二二日第三小法廷判決参照)。 二 特定の取引にもとづいてその目的物件の引渡を催告している以上、数量を示さなくても、その催告は適法である。
一 双務契約の当事者の一方が債務の履行をしない意思を明らかにした場合と同時履行の抗弁 二 催告の特定
民法533条,民法415条,民法545条
判旨
双務契約の一方が自己の債務を履行しない意思を明確に表示した場合には、相手方は自己の債務の弁済の提供をしなくても、履行遅滞を理由とする契約解除権を行使できる。
問題の所在(論点)
双務契約において、債務者が履行拒絶の意思を明確に表示した場合、債権者は民法533条に基づく同時履行の抗弁権を奪うための弁済の提供(同法492条)をしなくても、履行遅滞を理由に契約を解除できるか。
規範
双務契約において、当事者の一方が自己の債務の履行をしない意思を明確にした場合には、相手方が自己の債務の弁済の提供をしなくても、当該当事者は自己の債務の不履行について履行遅滞の責を免れない。
重要事実
訴外DはE商店名義で本件売買契約を締結し、被上告人(買主)から前渡金を受領した。しかし、Dは本件取引に基づく目的物件の引渡債務について、履行しない意思を明確にした。これに対し、被上告人は自己の残債務につき弁済の提供をすることなく、目的物件の引渡を催告した上で、売買契約の解除権を行使し、上告人(名義貸与者)に対して前渡金の返還を求めた。
あてはめ
本件において、債務者側は目的物件の引渡債務を履行しない意思を明確に表示している。このような場合、債権者である被上告人が自己の債務について現実の提供や口頭の提供をしなかったとしても、債務者は履行遅滞の責任を負う。また、被上告人が本件取引に基づく物件の引渡を求めた催告は、内容が特定されており有効である。したがって、適法な催告を経てなされた解除権の行使は有効と認められる。
結論
債務者が履行拒絶の意思を明確にした以上、弁済の提供は不要であり、被上告人による本件売買契約の解除は有効である。
実務上の射程
民法541条に基づく解除の際、相手方に同時履行の抗弁権がある場合は原則として弁済の提供が必要だが、本判例は履行拒絶の意思表示がある場合にその例外を認める。司法試験では、解除の要件検討において「同時履行の抗弁権を消滅させるための提供」の要否を論じる際の確立した規範として用いる。
事件番号: 昭和39(オ)590 / 裁判年月日: 昭和39年12月4日 / 結論: 棄却
借地法第一〇条により建物の買取を請求した者が、建物の買取代金の支払を受けるまで該建物の引渡を拒み、これを占有することによつて敷地の占有を継続する場合には、右占有がもつぱら右同時履行の抗弁権行使のみを目的とするときは格別、これを自から使用しまたは第三者に使用せしめているときは、敷地の賃料相当額を不当利得として返還すべき義…
事件番号: 昭和40(オ)60 / 裁判年月日: 昭和40年9月10日 / 結論: 棄却
民法第五四五条第二項の利息債務は、実質は不当利得返還の法理より生ずるもので、同法第五四六条第五三三条所定の同時履行の抗弁権にかかわりなく発生し、ただその債務の履行が右抗弁権の作用をこうむるにすぎないと解すべきである。