山林を造材事業に供する目的で買受ける契約がなされた場合、買受人において、その北側山麓に開鑿道路が開通し造林事業上極めて有利である等の説明を信じ当初の買受希望価額を上廻る代金で買受ける契約をした等、判示事実関係のもとでは右北側道路の存在は売買契約の要素である。
契約の要素に錯誤があるとされた事例。
民法95条
判旨
売買契約において、目的物の利便性に直結する道路の存在を誤信し、その存在が契約締結の意思決定に不可欠であった場合は要素の錯誤に当たる。また、錯誤による無効を判断する際、相手方から重過失の主張があるならば、裁判所はその存否について判断を尽くさなければならない。
問題の所在(論点)
目的物の利便性(道路の存在)という動機の錯誤が、契約の「要素」の錯誤に当たるか。また、錯誤を主張する者に「重大な過失」があるとの主張に対し、裁判所は判断を示す必要があるか。
規範
意思表示の動機が相手方の表示により契約の内容に取り込まれ、その事項を欠いたならば表意者が意思表示をしなかったであろうと認められ、かつそれが取引上の通念に照らして重要である場合には、契約の「要素」に錯誤があるといえる。また、民法95条但書(当時)に基づき、表意者に重大な過失があるときは無効を主張できないため、重過失の抗弁がある場合はその存否を審理・判断すべきである。
重要事実
買主(被上告人)は、造材事業のために山林を買い受ける際、売主(上告人)から「北側山麓に開鑿道路が開通したので搬出に極めて有利である」との説明を受けた。買主はこれを信じ、当初の希望額を大幅に上回る230万円で売買契約を締結した。しかし実際には北側に道路はなく、事業上の利用価値はほとんどなかった。買主は道路がないと知っていれば契約しなかった。売主は訴訟において、買主が道路の存否を調査しなかったことにつき重過失がある旨を主張した。
あてはめ
本件山林の北側道路の存在は、造材事業の経営効率に直結し、代金額の決定にも大きな影響を与えている。買主が道路の存在を信じなければ契約をしなかったことは取引上も至当であり、本件売買の「要素」をなす錯誤にあたる。一方で、売主から「買主は調査を怠った」として重大な過失がある旨の準備書面が提出されていたにもかかわらず、原審がこの点について判断を遺脱したことは、理由不備の違法があるといわざるを得ない。
結論
本件錯誤は契約の要素にあたるが、買主の重大な過失の有無について審理を尽くさせるため、原判決を破棄し、本件を原審に差し戻す。
実務上の射程
動機の錯誤が法律行為の要素となるための「表示」の重要性を示す。答案では、動機が明示または黙示に表示され契約内容となったかを認定する際の論拠として用いる。また、重過失の抗弁が提出された場合の審理義務についても触れる際に有用である。
事件番号: 昭和27(オ)938 / 裁判年月日: 昭和29年11月26日 / 結論: 棄却
意思表示の動機に錯誤があつても、その動機が相手方に表示されなかつたときは、法律行為の要素に錯誤があつたものとはいえない。