売買契約当事者間において授受された金員につき、被告(売主)がこれを売買代金の内金としてではなく解約手附金として受取つた旨抗争しているのにかかわらずこれを当事者間に争いなしとした違法があつても、意思表示が法律行為の要素に錯誤があるため右売買契約は無効であるとして右金員の返還請求権の存することが認定された場合は右違法は判決に影響を及ぼさないというべきである。
当事者間に争いのある事実を争いなしとした違法があつてもその違法が判決に影響を及ぼさないとされた事例
民訴法257条,民訴法394条
判旨
法律行為の内容をなす意思表示につき、意思と表示の不一致が重大であり、表意者が錯誤がなければ意思表示をしなかったといえる場合には「要素の錯誤」に当たり、当該意思表示は無効となる。
問題の所在(論点)
民法95条(改正前)にいう「要素の錯誤」の成否。特に、当事者が主張する前提事実の認識の齟齬が、法律行為の効力を否定すべき「要素」に関する錯誤といえるか。
規範
意思表示が「要素の錯誤」に該当し無効とされるためには、表意者が錯誤がなければその意思表示をしなかったであろうと認められ、かつ、一般の標準に照らしてもその意思表示をしないことが当然であると認められる程度に、その錯誤が意思表示の内容の重要な部分に関するものであることを要する。動機の錯誤であっても、それが表示され法律行為の内容となっている場合には要素の錯誤となり得る。
重要事実
上告人と相手方との間で20万円の授受を伴う法律行為(契約等)が行われた。上告人はこの20万円を「解約手附金」として受領したと主張したが、原審はこれを「内金」として授受されたものと認定した上で、その前提となる意思表示に要素の錯誤があったと判断した。上告人は、当該錯誤は単なる「縁由(動機)の錯誤」に過ぎず、法律行為の無効を導くものではないと主張して上告した。
あてはめ
判旨は詳細な具体的事実の評価過程を明示していないが、原審が認定した事実関係(20万円の法的性格の誤認等)に基づき、錯誤が単なる縁由(動機)に留まらず、法律行為の重要な内容(要素)をなしていると判断した。上告人が主張する「解約手附金」としての受領という認識は、事案の客観的経緯に照らし、法律行為の根幹に関わる主観的・客観的重要性を有していたと解される。したがって、これを要素の錯誤と認めた原審の判断は正当である。
結論
本件の意思表示には要素の錯誤が認められるため、当該法律行為は無効であり、既払金の返還請求は認められる。
実務上の射程
本判決は、錯誤が法律行為の「要素」に該当するか否かの判断基準が事実認定の問題であることを示唆している。答案上は、動機の錯誤が明示または黙示に表示され法律行為の内容となっている場合に「要素の錯誤」となり得るという枠組みで活用すべきである(なお、現行民法95条下では「錯誤取消し」として整理される)。
事件番号: 昭和45(オ)685 / 裁判年月日: 昭和47年5月19日 / 結論: 破棄差戻
甲乙問の土地売買契約の解除と土地交換契約の締結に伴い、甲が乙に対して負担した清算金債務を弁済するため、自己が金融機関である丙との間で締結していた定期貯金契約を合意解約し、その払戻金を乙に支払うことを丙に対し委任した場合において、右売買契約の解除および交換契約が甲の土地評価の誤認に起因し法律行為の要素の錯誤により無効であ…
事件番号: 昭和27(オ)726 / 裁判年月日: 昭和29年9月10日 / 結論: 棄却
将来不成立の場合は返還を受くべき約旨の下に将来成立すべき賃借権の対価として金員を交付した場合において、その賃借権が不成立に終つたときは、その金員の交付をもつて権利金の交付と目すべきでなくこれをもつて直ちに不法原因給付ということはできない。