公職選挙において、威迫行為、監視行為、選挙妨害、饗応買収等個々の事実があつても、それだけで直ちに選挙の無効原因とされるのではなく、これらの違法行為が全般的にかつ組織的に行なわれて、当該選挙を無効としなければならない程度に選挙の自由と公正が阻害されたときに始めて無効の原因となり得る。
公職選挙法における個々の違反行為と選挙の無効原因
公職選挙法205条1項
判旨
公職選挙法上の選挙無効事由である選挙の自由公正の阻害は、個別の違法行為があるだけでは足りず、それらが全般的にかつ組織的に行われ、選挙の結果を左右するほどに自由と公正が阻害された場合に認められる。また、行政事件訴訟における裁判所の職権証拠調べは義務ではなく裁量に属する。
問題の所在(論点)
公職選挙法に基づく選挙無効の訴えにおいて、いかなる程度の違法行為があれば「選挙の自由と公正が阻害された」として無効原因となるか。また、行政訴訟における職権証拠調べの性質が問題となる。
規範
選挙を無効とするためには、単に個別の違法行為(威迫、監視、妨害、饗応買収等)が存在するだけでは足りない。これらの違法行為が「全般的にかつ組織的に行われて、当該選挙を無効としなければならない程度に選挙の自由と公正が阻害されたとき」に初めて無効原因となる。また、旧行政事件訴訟特例法9条(現行行訴法24条)の職権証拠調べ規定は、裁判所にその義務を課すものではなく、職権で行使し得る権限を認めたものに留まる。
重要事実
上告人は、本件選挙において特定の製作所や労働組合が、下請業者に対する監視、選挙妨害、饗応買収などの違法行為を組織的に行ったと主張し、選挙の無効を訴えた。原審は、個別の違法事実は一部認められる可能性があるものの、それらが製作所の職制を通じた動員計画や、組合による指令に基づき組織的に行われた事実は認められないと判断した。上告人は、原審が証拠調べを尽くさず、警察の傍観等の主張を無視したとして上告した。
あてはめ
本件では、D製作所が企業体の職制を通じて組織的に違法行為を行った事実は認められず、また労働組合についても地域社会で絶大な支配力を有していたり、組織として違法行為を指令したりした証拠はない。仮に個々の違法行為があったとしても、それらが「全般的にかつ組織的」になされたものでない以上、選挙の自由と公正を根本から阻害し、選挙を無効にすべき程度に達しているとはいえない。また、証拠調べについても、他の証拠により組織性が否定される心証が得られている以上、追加の証拠調べを行わないことは違法ではない。
結論
本件選挙を無効にしなければならないほど選挙の自由と公正が阻害されたとは認められず、選挙無効の主張は排斥される。職権証拠調べの不実施等に法令の違背はない。
実務上の射程
選挙無効の訴えにおける判断枠組みとして「全般的・組織的」という基準を示した重要判例である。行政訴訟全般において、裁判所の職権証拠調べが義務ではなく裁量である点(現行行訴法24条の解釈)を確認する際にも引用可能である。答案では、個別の不正事実に飛びつくのではなく、それらが組織性や全般性を有し、選挙制度の根幹を揺るがす規模であったかを検討する指標として用いる。
事件番号: 昭和36(オ)200 / 裁判年月日: 昭和36年4月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙事務従事者による不正行為や開票録表示数の不真正は、それが選挙の管理執行に関する規定違反にあたり、選挙の結果に影響を及ぼす蓋然性がある場合には、公職選挙法205条1項に基づき選挙を無効とする理由になり得る。 第1 事案の概要:本件選挙において、投票所及び開票所の選挙事務従事者が不正行為を行った。…