投票なかばで投票箱を開いた違法があつても、その目的、態様、情況によれば、不正行為は行われず、不正行為を行う可能性もうかがわれず、選挙の公正に疑惑を招く事態もなかつた場合は、選挙を無効とすべきではない。
投票なかばで投票箱を開いた違法があつても選挙を無効としなかつた一事例
公職選挙法205条1項
判旨
選挙管理の過程で投票箱が恣に開かれる等の違法行為があっても、その目的・態様・状況から不正行為の可能性がなく、選挙の公正に疑惑を招く事態でない限り、直ちに選挙無効とはならない。公職選挙法205条1項の「選挙の結果に異動を及ぼすおそれ」は、具体的な諸事情を総合して判断されるべきである。
問題の所在(論点)
選挙管理における投票箱の開封等の違法行為が存在する場合、現実に不正が行われた証拠がなくても、公職選挙法205条1項に基づき選挙を無効とすべきか。すなわち「選挙の結果に異動を及ぼすおそれ」の有無の判断基準が問題となる。
規範
公職選挙法205条1項にいう「選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあるとき」とは、選挙管理に規定違反等の違法がある場合において、その違法がなければ当選人が異なっていた可能性がある場合だけでなく、客観的に選挙の公正を害し、選挙人の自由な意思の表明を妨げた疑いがある場合を指す。もっとも、管理上の形式的な違法があるだけで直ちに無効となるのではなく、当該違法の目的、態様、周囲の状況等を総合考慮し、不正行為が行われる蓋然性や、選挙の公正に対する信頼が損なわれる事態に至ったか否かによって判断する。
重要事実
選挙管理委員会の書記(訴外D)が、開票手続の過程で投票箱を恣に開けるという違法行為を行った。また、残投票用紙の不足が指摘されたが、原審の認定によればその不足数は12枚にとどまっていた。上告人は、投票箱を開けたこと自体が選挙の公正を著しく害するものであり、現実に不正が行われたか否かにかかわらず選挙は無効であると主張して、選挙無効を求めた。
事件番号: 昭和27(オ)301 / 裁判年月日: 昭和30年2月10日 / 結論: 破棄自判
投票なかばで投票箱を開き投票を取り出した違法は、常に選挙の結果に異動を及ぼす虞があり、選挙無効の原因となる。
あてはめ
本件における投票箱の開封は、選挙の公正を維持する観点から厳に責められるべき違法行為である。しかし、当該行為の目的や態様、周囲の状況を検討すると、不正行為が行われた事実は認められないだけでなく、不正を行う可能性すら伺われない状況であった。また、残投票用紙の不足も12枚という僅少な数にとどまり、これらが選挙の結果に具体的な異動をもたらすようなものではなかった。したがって、本件の違法は選挙の公正に疑惑を招く事態とまではいえず、選挙の結果に異動を及ぼすおそれがあったとは認められない。
結論
本件投票箱の開封等の違法は、選挙の結果に異動を及ぼすおそれがある場合に当たらないため、選挙を無効とすることはできない。
実務上の射程
選挙無効訴訟における「結果に異動を及ぼすおそれ」の判断において、管理上の重大な過失や違法があっても、具体的な不正の介在可能性や当選順位への影響を考慮して無効を否定する枠組みとして機能する。答案上は、違法性の程度と「公正への疑惑」の有無を相関的に論じる際に引用すべき判例である。
事件番号: 昭和27(オ)601 / 裁判年月日: 昭和27年12月4日 / 結論: 破棄差戻
候補者の氏を記載した小紙片が選挙事務担当者の知らぬ間に、投票記載所の机上に一、二時間放置されていたからといつて、公職選挙法第二〇五条にいわゆる選挙の規定に違反するものということはできない。
事件番号: 昭和36(オ)200 / 裁判年月日: 昭和36年4月11日 / 結論: 棄却
【結論(判旨の要点)】選挙事務従事者による不正行為や開票録表示数の不真正は、それが選挙の管理執行に関する規定違反にあたり、選挙の結果に影響を及ぼす蓋然性がある場合には、公職選挙法205条1項に基づき選挙を無効とする理由になり得る。 第1 事案の概要:本件選挙において、投票所及び開票所の選挙事務従事者が不正行為を行った。…