候補者の氏を記載した小紙片が選挙事務担当者の知らぬ間に、投票記載所の机上に一、二時間放置されていたからといつて、公職選挙法第二〇五条にいわゆる選挙の規定に違反するものということはできない。
投票記載所の机上に候補者の氏を記載した小紙片が放置されていた場合と公職選挙法第二〇五条にいわゆる選挙の規定違反
公職選挙法205条
判旨
公職選挙法205条1項の「選挙の規定に違反することがあるとき」とは、選挙管理機関の管理執行手続が明文規定に違反する場合、または明文がなくとも選挙の自由公正の原則が著しく阻害される場合を指す。選挙管理者に過失がなく、単に第三者が投票所に候補者名の紙片を放置したに過ぎない場合は、原則としてこれに当たらない。
問題の所在(論点)
公職選挙法205条1項の「選挙の規定に違反」の意義、および選挙管理者に帰責性がない第三者の行為が同条の違反に該当するか。
規範
公職選挙法205条1項にいう「選挙の規定に違反することがあるとき」とは、主として、(1)選挙管理の任にある機関が選挙の管理執行の手続に関する明文の規定に違反すること、または(2)直接の明文規定は存在しないが選挙法の基本理念たる選挙の自由公正の原則が著しく阻害されるときを指すと解すべきである。
重要事実
村長選挙の投票所において、投票記載所の机上に、特定の候補者の氏名が表裏両面に墨書された紙片(約9.2cm×2.6cm)が約40分間にわたり放置されていた。原審は、この紙片が投票勧誘の意図で故意に放置されたものであり、選挙管理担当者に過失がなくとも、自由な投票を制肘する環境が生じたとして選挙無効を認めた。これに対し、被告(選管側)が上告した。
あてはめ
本件の紙片放置について、原審は「心覚えの持参品としては念入りすぎる」として勧誘意図を認定したが、その推論には経験則上の飛躍がある。さらに、同条の「規定に違反」は、選挙管理機関による手続違背や、自由公正の原則が著しく阻害される事態を指す。本件のように、選挙事務担当者の不知の間に置かれ、発見しなかったことに過失がない状況であれば、直ちに同条の違反があったと解することはできない。したがって、担当者の過失の有無を問わず一律に違法とした原審の判断は、法令の解釈を誤っている。
結論
選挙管理機関の過失なく第三者が紙片を放置した事実のみでは、公職選挙法205条1項の「選挙の規定に違反」には当たらない。原判決を破棄し、差し戻す。
実務上の射程
選挙無効訴訟において「規定の違反」の定義を明示した重要判例である。答案上では、管理者の手続違反(明文違反)がない場合でも「自由公正の原則の著しい阻害」があれば無効原因となり得ることを示しつつ、その認定には管理者の帰責性や事態の重大性を慎重に検討すべきとする論拠として活用する。
事件番号: 昭和27(オ)301 / 裁判年月日: 昭和30年2月10日 / 結論: 破棄自判
投票なかばで投票箱を開き投票を取り出した違法は、常に選挙の結果に異動を及ぼす虞があり、選挙無効の原因となる。
事件番号: 昭和42(行ツ)20 / 裁判年月日: 昭和42年4月15日 / 結論: 棄却
選挙人、候補者、選挙運動者等の選挙の取締りないし罰則違反の行為は、公職選挙法第二〇五条第一項にいう選挙の規定違反にあたらないものと解するのが相当である。